女性に影響を与える薬もある(Getty Images)
コレステロール値が低い人は短命
まず、どの医師も減薬候補の筆頭に挙げるのが、コレステロールを下げる薬だ。特に女性は閉経後にコレステロール値が上昇しやすいため、基準値を超えがちで、スタチンという薬を処方されている人が多い。厚生労働省「国民健康・栄養調査」(令和2年12月)によれば70才以上の女性のうち35.4%がコレステロール低下薬を服用している。
確かにコレステロール値が高くなると動脈硬化が進み、心筋梗塞のリスクが上昇するとされている。しかし、喫煙習慣や糖尿病などの持病を持っている人が少ない日本人の女性は、男性や欧米人に比べリスクは低い。
精神科医で高齢者医療にも携わるルネクリニック東京院院長の和田秀樹医師が話す。
「多くの循環器内科医は『コレステロール値を下げれば心筋梗塞のリスクが下がるから投薬は有効』と安易に考えがちですが、コレステロールはホルモンや細胞膜の材料になりますし、値が下がりすぎると免疫機能が低下します。実際、コレステロール値が低い人の方が短命という調査結果もあります。
薬を処方するかどうかは、そうした点も含めて総合的に考えなくてはいけないのに、心筋梗塞という一面のリスクだけ考えて薬を出している医師が多すぎるのです」
コレステロール低下薬以上によくのまれているのが、血圧を下げる降圧薬だ。前出の調査によると、日本人は年齢とともに降圧薬を処方される人が増え、70才を超えると女性も半数以上(50.8%)がこの薬をのんでいる。
だが、降圧薬によって大幅に血圧が下がった結果、かえって不健康になる人も多い。高齢者施設の入居者への訪問診療を行っている、ひらやまのクリニック(鹿児島県南九州市)院長の森田洋之医師が話す。
「他院から私がかかわる施設へ入居することになった患者さんを診察すると、何種類もの降圧薬を大量にのんでいて、驚くことが少なくありません。血圧が下がりすぎていて、薬のせいで元気をなくしている人も多いのです。だから私は、そのような場合には、真っ先に降圧薬を減らしています」
その際には、複数ある降圧薬の中でも新しいタイプで、多くの人に処方されている「ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)」の減薬を優先するという。ARBは「カルシウム拮抗薬」や「利尿薬」といった古くからある降圧薬に比べ薬価が高い。新しくて高価な薬ほど効果が高いと思われがちだが、それは思い込みだ。森田医師が続ける。
「経験的に、ARBを減薬しても血圧は上がらないことが多いです。それなのにARBを処方する医師が多いのは、なるべく薬価の高い薬を売りたいという製薬会社のプロモーションによるところも大きい。薬価が1錠数百円するARBに対して、カルシウム拮抗薬は数十円、利尿薬に至っては一桁のものもあります。降圧薬をのむとしても、古くからある安い薬で充分だというケースは多いです。
昔から処方されているぶん、副作用の出方がよくわかるため、新しい薬よりも安心ともいえます」