骨粗しょう症薬で骨折しやすくなる
女性は年齢とともに骨密度が下がる「骨粗しょう症」になりやすい。治療薬には「ビスフォスフォネート」「SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)」「抗RANKL抗体薬」「活性型ビタミンD3薬」など多くの種類がある。「骨折すると寝たきりになって要介護になる」という不安から多くの高齢女性が使っているが、この薬の処方の仕方にも問題があるという。
「たとえば、よく使われているビスフォスフォネートの代表的な副作用に、『胃腸障害』があります。しかし高齢者は食欲がなくなってご飯が食べられなくなれば如実に歩けなくなる。当然、骨ももろくなってしまいます。皮肉なことに、骨粗しょう症を治す薬をのんだために、かえって骨折しやすくなるということもあるのです」(和田医師)
骨粗しょう症の治療は継続することが大切と強調され、服薬や注射の予定を書き込む専用の手帳も配られるが、なかには寝たきりになってまで、治療を続けている人がいるという。なんのために薬を使うのか、副作用を甘受してまで治療を続けるのがいいことなのか、よく考える必要があるだろう。
骨粗しょう症とともに年を重ねた女性の多くが悩んでいるのは不眠だ。そのために高齢になると「エチゾラム」「ゾピクロン」「ゾルピデム」といった睡眠薬をのむ人も増えてくる。
だが、これらのベンゾジアゼピン系(ベンゾ系)あるいは非ベンゾジアゼピン系(非ベンゾ系)と呼ばれる種類の脳に作用する睡眠薬には、日中にも眠気を引き起こす、筋肉を弛緩させるなどの副作用があり、特に高齢者では夜中の転倒・骨折に充分な注意が必要になる。
それだけでなく、漫然とのみ続けると、薬が切れると不安になる、眠れなくなる、イライラするなどの「精神的依存」や、発汗、動悸、頭痛、めまいといった「身体的依存」が起こり、その結果服用量が増えてやめられなくなるという問題も起こりがちだ。したがって、なるべく睡眠薬に頼らずに生活することが推奨されるが、不眠にはどう対応すべきなのか。
「お年寄りに眠れないと訴えられると、医師に睡眠薬を出すように求める施設が多い。薬に頼ってしまう原因の1つは、その入居者が安心して暮らせる環境が整っていないこと。私が連携している施設では、入居者に『眠れないなら、眠れないなりに生活していきましょう』と話しています。そうすれば、薬に頼りすぎることもなくなります。そもそも高齢者は夜眠れないことに神経質になる必要はないのです」(森田医師)
ただ一方で、全員からこうした薬を取り上げる必要はない。和田医師が話す。
「確かに、転倒リスクを伴い、依存性もある薬を安易に処方するのは問題です。私も精神科医として、特にベンゾ系の薬の乱用に警鐘を鳴らしてきました。
しかし、ベンゾ系の薬の『アルプラゾラム』を寝たきりの人に使ったら、それまでつらそうだった顔つきがとたんに幸せそうになったことがありました。要は、『この薬は絶対ダメ』という短絡的な考えではなく、その人が置かれている状況や、時と場合によって薬をうまく使い分けることが大切なんです」
そのためにも重要なのが、処方されている薬の「優先順位」を知ることだ。同じ処方内容でも、ある人にとっては降圧薬が最重要だが、ほかの人にとっては睡眠薬の方が大切ということもあり得る。
かかりつけ医と話し合いながら順番をつけて、優先順位の低いものから少しずつ薬をやめていけば、減薬に成功しやすい。最終的には「薬ゼロ」を目標に減薬に取り組むといいだろう。
高齢者になって薬ゼロで体調を維持できるのかと不安に思う人がいるかもしれないが、長尾クリニック(兵庫県尼崎市)名誉院長の長尾和宏医師によると、90才を超えているのに、まったく薬に頼らず、自立した生活をしている人は決して少なくないという。