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高田文夫氏の青春時代、頭の中は“高倉健”一色 今でも顔を見ると何かがこみ上げる

画面に映っただけで胸がジーンとするという(イラスト/佐野文二郎)

画面に映っただけで胸がジーンとする(イラスト/佐野文二郎)

 放送作家、タレント、演芸評論家、そして立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、青春時代に熱狂した高倉健について綴る。

 * * *
 4月14日、NHKの『アナザーストーリーズ』で高倉健『幸福の黄色いハンカチ』を特集。久しぶりに高倉健の姿を拝見した。亡くなったのは2014年(83歳)。ただ胸に熱いものが。こんな男がいるだろうか。画面に映っただけで胸がジーン、なにかがこみあげてくる。

 私が若き日、10代から20代、頭の中は高倉健一色だった。若者を熱狂させたヤクザ映画ブーム、超多忙を極めた三大シリーズの同時進行。『網走番外地』『日本 客伝』『昭和残侠伝』。あの頃の若者はみな心の中に唐獅子牡丹の花田秀次郎のように長ドスを秘めていて、何かがあればいつでも殴り込みに行ける覚悟だけはできていた。

 時は移り、健さんも東映から離れ、我々も少しは大人となり、「斬ったはった」の世界から足を洗い、男そのものを見せ味わいをかもし出す俳優となった時、健さんの母は喜んだそうだ。「いつまでもヤクザじゃしょうがないでしょ」。ことのほか老いた母は『幸福の黄色いハンカチ』を見た時感動したと『アナザーストーリーズ』は伝える。

 高倉と同い年の山田洋次監督が『幸福の黄色いハンカチ』のシノプシス(あらすじ)を説明しに初めて会った時、黙って山田の話をきき終わると少し間がありひと言「私は、いつ身体をあければいいんですか」。いさぎよい。それもマネジャーもつけず、ひとりで山田の元へ来ての即決断である。男はこうありたい。高倉健のことを書こうとすると誰でもそうだろうが、あれもこれも想い出してしまう。

 健さんの顔を見ただけで頭の中にいろんな曲が流れてくる。当然“義理と人情を秤にかけりゃ 義理が重たい男の世界”の『唐獅子牡丹』。別れた妻、江利チエミが歌って最後にヒットした『酒場にて』(これは泣ける)。そして『鉄道員』で健さんが口ずさんだ『テネシー・ワルツ』(そう、江利チエミが世に出た最初のヒット曲)。大スター江利チエミと駆け出しの俳優との結婚は衝撃的であった。有名なエピソードであの当時のコメント。

「オレは60万の俳優だ。家に帰ると250万の女房がいる」。時代のすべてを表わしている。『駅 STATION』の居酒屋、倍償千恵子と『紅白歌合戦』を見ている。そこに流れる八代亜紀の『舟唄』。イヨッ切なさ日本一!

 私の好きなエピソードは『海へ See You』のロケでチュニジアに行った時、サハラ砂漠にたたずんでウォークマンできいている。記者が曲名をきくと「中森明菜の『難破船』だよ」。クウ~ッしびれる。

※週刊ポスト2023年5月5・12日号

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