夏は低血圧リスクが高くなる
高血圧が「国民病」として取りざたされる一方、低血圧は単なる体質や季節性の不調とみなされ、治療の対象になることは少ない。
しかし低血圧に悩む人は全国に1700万人というデータもあり、自覚していない“潜在患者”も含めれば、その人数は高血圧よりも多いと懸念する医療者もいる。
実は、「ウラ国民病」ともいうべき低血圧の原因のひとつに、前述した通り、森田さんが診察した90代の女性のような降圧剤ののみすぎがある。
「年齢を重ねるほどに高血圧の症状は悪化するため、降圧剤の量が増えやすい傾向にあります。通常値に近づくくらいならいいですが、下がりすぎることは問題です。
活動の鈍化や食欲低下、無気力状態などの症状が出ることがありますが、老化現象と捉えられ、適切な処置が受けられなくなるケースもあるのです」(森田さん)
特にこれからの季節は要注意。気温の高い夏は、体内に熱がたまり、それを放出するために血管が拡張し、血圧が下がりやすくなる。
「同じ量の降圧剤をのんでいても、夏は血圧が下がりすぎてしまうことがあります。また、体の水分が不足して脱水気味になって、血液の量が減少することで低血圧の状態に陥る人も少なくありません」(森川さん・以下同)
危惧すべきは、低血圧の陰にこそ大きな病気が潜んでいる可能性があること。
「心不全や心筋梗塞、心房細動などの心臓疾患があると、血液を全身に送り出す力が低下するため、慢性的な低血圧の状態が続くことがある。ほかにも甲状腺機能低下症、副腎不全(アジソン病)など内分泌疾患が、血圧の低下を引き起こしていた事例も報告されています」
加えて消化器官からの出血やアナフィラキシーショック、敗血症など重度の感染症などが原因で、血圧が低くなることもある。
「低血圧が続くから、と念のため検査を受けてみたら、胃から出血していたという患者もいました。出血性の低血圧は、顔が白っぽくなるなど貧血症状も現れます。急にひどいめまいやふらつきが出たときは、大きな疾患が隠れている可能性があるので、すぐに病院へ行って診察を受けてください」