中華民国以前からいわゆる「中国人」は、朝鮮民族を自らに従属するものと見ていた。だからこそ朝鮮民族の王は中国皇帝に朝貢し、中国人は朝鮮人に臣下の礼を取らせていた。だが日本は、日清戦争に勝つことによって朝鮮は独立国家、つまり中国と対等だと当時の中国である清国に認めさせた。これを喜んだ朝鮮民族が中国への服属の象徴である迎恩門を叩き壊し独立門を建てたこと、すなわち独立門は日本からの独立では無く中国からの独立を祝うためのものだということはすでに記したが、これが中国にとってはじつに面白くない出来事であったことは理解できるだろう。

 アメリカで黒人奴隷が解放されたのは一八六三年だが、白人も黒人も同等の権利を持つようになったのは、その百年後の一九六四年、ジョン・F・ケネディ大統領の時代で正確に言えばその前年にケネディは暗殺されていた。差別解消にもっとも尽力したマーチン・ルーサー・キング牧師も暗殺された。その黒人差別がいまも完全には消滅していないのは、ご存じのとおりである。

 二百年足らずの歴史しか持たないアメリカの黒人差別に対し、中国人の朝鮮人差別の歴史は一千年以上の長きにわたって続いてきた。簡単に消滅するようなものでは無い。だが、朝鮮民族にとってこれを一気に解消する簡単な方法があった、「日本人になる」ことである。大韓帝国成立以後もなかなか近代化を実現できなかった朝鮮民族にくらべ、日本人は破竹の勢いで大日本帝国を隆盛に導いている。だからこそ、日韓併合に賛成する朝鮮民族も大勢いたのである。

 現在の韓国では、日韓併合に賛成した朝鮮民族は総理大臣李完用を筆頭にすべて「極悪人」ということになっており、また日本の歴史学界にもそうした一方的な見方に賛成することが学者の良心だと勘違いしている人々が大勢いるので、歴史の真実がなかなか定着しないが、この『逆説の日本史』シリーズの愛読者にはわかっていただけるだろう。あらためて『逆説の日本史 第二十七巻 明治終焉編 韓国併合と大逆事件の謎』 を読んでいただくのもいいかもしれない。

 では、いよいよ本題に入ろう。これら三つの事件の真相はどうだったのか、そして日本の新聞はそれをどのように報道したのか、である。ヒントになる言葉は、前出の「阿部十ヶ条」の第一項目にある、「巷間唱道さられている『満蒙問題解決論』」というキーワードだ。

(文中敬称略。1382回に続く)

【プロフィール】
井沢元彦(いざわ・もとひこ)/作家。1954年愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。TBS報道局記者時代の1980年に、『猿丸幻視行』で第26回江戸川乱歩賞を受賞、歴史推理小説に独自の世界を拓く。本連載をまとめた『逆説の日本史』シリーズのほか、『天皇になろうとした将軍』『「言霊の国」解体新書』など著書多数。現在は執筆活動以外にも活躍の場を広げ、YouTubeチャンネル「井沢元彦の逆説チャンネル」にて動画コンテンツも無料配信中。

※週刊ポスト2023年6月2日号

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