ライフ

日本語を身につけたイタリア出身翻訳者が語る語学の極意「間違えることにマイナスの気持ちはない」【連載「日本語に分け入ったとき」】

イタリア出身の翻訳者・文筆家のイザベラ・ディオニシオさん

イタリア出身の翻訳者・文筆家のイザベラ・ディオニシオさん

 日本語を母語としないながらも、今は流暢でごく自然な日本語で活躍している外国出身者は、どのような道のりを経てそれほどまで日本語に習熟したのか。日本語教師の資格を持つライターの北村浩子氏がたずねていく。今回はイタリア出身の翻訳者・文筆家のイザベラ・ディオニシオさんにうかがった。【全3回の第3回。第1回から読む

 * * *
 イザベラさんの『女を書けない文豪たち』の中に、日本語には汚い言葉が少ないので〈汚い言葉を真っ先に習いたい留学生は大体みんながっかりする〉というくだりがある。思わず笑ってしまい、あれこれ思い浮かべてみた。××、△△△……。確かに少ないような気はしたけれど、外国語に比べて多いか少ないのかは分からない。イザベラさん、少ないですかね?

「少ないというか、足りないですね(笑)イタリア語とかロシア語とかにはたくさんありますし、自分でも作れます。

 日本語は、すごく怒った時、逆に丁寧になりますよね。恋人同士が「どうなさいます?」みたいに言い合ったりする。言葉で距離を作るんですよね。その感覚は面白いと思うんですが、カラフルな罵倒語があったらいいなあとも思います」

 カラフルな罵倒語! あったらどんどん使うだろう(内心で)。

 そんなふうに「汚い言葉が少ない」と気付くのも学びの賜物だと思うが、大学や大学院以外で、日本語を「習った」ことはなかったのだろうか。

「大学院に入る前、私より少し年上のフリーライターの方と仲良くなったんです。彼女に『書く力をつけたい』と相談したら、先生役を引き受けてくださって、1週間に1回、彼女の家で作文や小論文を教わることになりました」

 イザベラさんは分厚いファイルを見せてくれた。鉛筆書きのきれいな字で埋まった作文用紙、小説やエッセイのコピーがぎっしりと入っている。

「この作品の論旨を50字以内で、とか、何がテーマだと思うか、というような宿題を出してもらい、毎回添削してもらいました。文学が大好きなんですと話したら、文芸誌とかから課題を探してくださって、ありがたかったですね。いろいろな表現や書き方のバリエーションも知ることができたし、質問も気軽にできて、本当に楽しかったです」

 なんてすてきなレッスンだろう。そのフリーライターの方にとっても、小説の解釈や文章について考えるきっかけになったに違いない。

「日本文学だけじゃなく、とにかく文学が好きで……どうしてそんなに好きなのか自分でもよく分からないんですけど、原語で作品を読んで、感じたことを伝えたいという気持ちがずっと強くあるんですよね。でも文学って、特に古い作品は、国を問わずあまり興味を持たれない。つまらないと思っている人が結構多い気がする。『学校で読まされるやつ』っていう認識。それに納得がいかなくて(笑)『ここが面白いよ』って、自分の言葉で言いたいんだと思います」

関連記事

トピックス

小磯の鼻を散策された上皇ご夫妻(2025年10月。読者提供)
美智子さまの大腿骨手術を担当した医師が収賄容疑で逮捕 家のローンは返済中、子供たちは私大医学部へ進学、それでもお金に困っている様子はなく…名医の隠された素顔
女性セブン
吉野家が異物混入を認め謝罪した(時事通信、右は吉野家提供)
《吉野家で異物混入》黄ばんだ“謎の白い物体”が湯呑みに付着、店員からは「湯呑みを取り上げられて…」運営元は事実を認めて「現物残っておらず原因特定に至らない」「衛生管理の徹底を実施する」と回答
NEWSポストセブン
北朝鮮の金正恩総書記(右)の後継候補とされる娘のジュエ氏(写真/朝鮮通信=時事)
北朝鮮・金正恩氏の後継候補である娘・ジュエ氏、漢字表記「主愛」が改名されている可能性を専門家が指摘 “革命の血統”の後継者として与えられる可能性が高い文字とは
週刊ポスト
英放送局・BBCのスポーツキャスターであるエマ・ルイーズ・ジョーンズ(Instagramより)
《英・BBCキャスターの“穴のあいた恥ずかしい服”投稿》それでも「セクハラに毅然とした態度」で確固たる地位築く
NEWSポストセブン
箱わなによるクマ捕獲をためらうエリアも(時事通信フォト)
「箱わなで無差別に獲るなんて、クマの命を尊重しないやり方」北海道・知床で唱えられる“クマ保護”の主張 町によって価値観の違いも【揺れる現場ルポ】
週刊ポスト
火災発生後、室内から見たリアルな状況(FBより)
《やっと授かった乳児も犠牲に…》「“家”という名の煉獄に閉じ込められた」九死に一生を得た住民が回想する、絶望の光景【香港マンション火災】
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン