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梶よう子氏、新作『焼け野の雉』インタビュー 「我々と地続きな話として客観的に読めるのが時代小説のよさ」

梶よう子氏が新作について語る

梶よう子氏が新作について語る

 江戸時代、それも文化・文政の頃になると、草花を愛で、小鳥を飼って日々の彩りとすることが、庶民の間ですら大流行したという。

 そうした文化のあり様を忠実に活写した『ことり屋おけい探鳥双紙』から9年。梶よう子氏の新作時代小説『焼け野の雉』は、前作で夫〈羽吉〉と別れ、日本橋は小松町の飼鳥屋、ことり屋を1人で守っていくことになった主人公・おけいと、大の鳥好きとして知られた〈馬琴先生〉や近所の愛すべき人々のその後を描く。

 舞台となるのは文政12年、つまり神田佐久間町の材木小屋を火元とする、文政の大火(1829年)の真っ只中。東は佃島、西は新橋や品川にも及んだ火は小松町一帯をも呑み込み、彼女は物語開始早々、肝心の店を焼け出されてしまうのだ。

 そもそも前作自体、夫がさる旗本の依頼で〈夜になると胸元が青く光る鷺〉を探しに行ったまま失踪中という前提で始まっており、その帰りを信じて待つおけいが大小様々な事件を解く連作集として人気を得た。そこには妻の死後、言葉を失った娘〈結衣〉を育てる北町同心〈永瀬〉との淡い恋の予感も描かれ、彼女の幸せ探し第2弾はさらなる逆境から、その幕を開く。

「これは童話『青い鳥』の江戸版でもあるんですね。

 青い鳥(鷺)を捕まえれば大金を得て幸せになれると、羽吉は信じたわけですけど、果たしておけいはどうだったのか。実は信州で消息を絶った羽吉が記憶を失い、しかも彼を助けた女性のお腹に子供がいると知って彼女が離縁を申し出た時、私はそれがバッドエンドかハッピーエンドか、あえて白黒つけなかったんですね。それはおけいが決めることで、青い鳥は彼女に探してほしかったんです。

 ところがおけいが生きた時代を順に追っていったら、『マズい、文政12年に大火がある』と。かの曲亭馬琴まで出しちゃった以上、今さら舞台は動かせない(笑)。しかし、歴史的な事実は物語の背景として重要な要素なので、これはもう焼け野から始めるしかないなと」

 尤も無理な政策や災害が常に弱い者を苦しめるのは時代を問わない。そんな中、夫が始めた店を今後は自分が守っていくと心に決めた彼女が、裏店で古着屋を営む〈八五郎〉や働き者の倅〈長助〉。いつも快く店番をしてくれる隣の鳥籠屋の女房〈おとせ〉や、締切の度に店に逃げこんでくる馬琴先生。さらに羽吉の声真似が得意な九官鳥の〈月丸〉に助けられる姿を、特に今回は描きたかったという。

「おけいはちょっと依怙地なところがあるんですよね。羽吉がいなくても店や自分は大丈夫だと虚勢を張って、頑張り過ぎちゃうというか。ましてこんな有事の際は、その頑なさが迷惑にもなり得るわけで、店も家も失った彼女がいかに前を向くかを描く上で、人情はやはり欠かせないテーマでした」

 文政12年のその日。ある老夫婦が買い求め、なぜか後日人を介して返してきた〈カナリヤの番〉を巡って、カナリヤ好きな馬琴先生や、老夫婦の捜索を買って出る永瀬と話した矢先、方々で半鐘が。おけいは鳥達を鳥籠ごと大八車に載せ、全員で逃げる道を選ぶのだった。

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