全漁連の幹部から要望書を受け取る西村経産大臣(右から2番目、時事通信フォト)
中国の富裕層は中国産を食べない
今回明らかになったトリチウムを大量に海洋放出している原発は、紅沿河原発(遼寧省大連市)、秦山第三原発(浙江省嘉興市)、寧徳原発(福建省寧徳市)、陽江原発(広東省陽江市)の4基だ。
たとえば遼寧省ではたちうおやさわら、まながつお、大正えび、いか、しゃこ、ホタテ、なまこ、あわび、かき、しじみ、マテ貝、ムール貝などさまざまな魚介類が水揚げされ、日本に渡っている。
鴨緑江の対岸に北朝鮮を望む同省丹東市の水産加工会社会長は「昨年は、この海でとれた1億枚以上の生いかが日本の消費者の食卓に上った」と豪語する。
また、秦山第三原発がある浙江省から日本への水産物輸出量は約7万6000トン(2019年)で、浙江省にとって日本は最大の輸出相手国となっている。
「中国サイドは、報道官が日本の処理水の海洋放出に猛烈に反対したり、外務省の担当者が、“海は世界の公共財。日本の下水道ではない”と発言するなど過剰なまでに反応しています。これは中国が自国の処理水の海洋放出も重要な問題だと言っているようなもの。
近年、中国の富裕層の間では、一部の中国産の水産物を避けたり、食べるにしても、かなり吟味されるようになっているといいます」(中国在住ジャーナリスト)
いまや世界第2位の経済大国になった中国では、以前と打って変わり、一部の富裕層を中心に食に対して神経質になっているという。
愛知大学名誉教授で中国食品の安全性に詳しい高橋五郎さんもこう話す。
「中国産の食材はかねてさまざまなトラブルを起こしてきました。その影響もあり、中国では富裕層を中心に農薬や除菌に対する意識が高まってきている。ただ、広く国内の商品すべての質が消費者の要求に応えることはできていない。
そのため、上海や北京などに住む中国の富裕層は、高いお金を払い契約農場の会員になって、自分専用の食材を定期的に送ってもらう仕組みが普及している。彼らにつられるように、中間層も食品に対する安全意識が高まり、食材を厳選して買うようになってきている」
その一方で、前述の通り中国産の水産物は日本にどんどん輸入されている。食品ジャーナリストの郡司和夫さんが話す。
「物価が上昇しているのに給料が上がらない日本では、消費者がより安い食品へと流れている。日本の食卓が中国食材の受け皿になっているという現実もあるのです。
このままでは日本の食の安全や食文化が損なわれてしまうという危機感も出てきているものの、やはり背に腹はかえられぬというのが現状です」