誰かが声を出したら襲ってきそうな緊張感。刺激をしないように、全員黙ってしまったそう。何をされるのかわからないから、動くのすら怖い。これが本当の恐怖ですよね。車内のように身動きが取れない状態の中で霊が現れたら、何もできないというのがリアルなんです。兄もかなり驚いたものの、名阪国道のこの辺りは、日本有数の死亡事故多発地帯。パニックになったら、大事故になる。必死で平常心を保ちながら運転を続けたそうです。すると、その老婆が少しずつ兄に近づいてくる。白髪が肩にファサッと当たる……。それでも前を見て運転を続け、田尻トンネルに入った瞬間に老婆は消えたそうです。その間、約33分──。
その話を聞いてぼくも行ってみたのですが、その頃には女子トイレは建て替えられ、残念ながら怪異はありませんでした。
たばこを供えた途端、姿が消えた……
怖いというより、不思議な体験をしたこともあります。あれは、愛知県豊田市のM公園にあるお堂でのこと。ここには地下室があって、そのお堂を建てた人のお墓があるんです。線香代わりにたばこに火をつけて供えるという暗黙のルールがあったので、ぼくもその通りにしたんですよね。すると、気のせいかもしれませんが、たばこに火をつけた瞬間、空気がヒヤッとして、地下にいるのに風が入ってきたんです。その後は何事もなく外に出たのですが、前方から、やはりお堂に来たであろう、大学生のグループがやってきたんです。深夜2時くらいだったので、ぼくがいたら怖がるでしょうから、懐中電灯を左右に振って、ぼくがいることを伝えました。でも、彼らはぼくに気づかず、目の前を素通りしてしまったんです。ぼくに気づかなかったというか、まるで見えていないかのようでした……。
後日、「私もM公園のお堂に入ったことがあります」という女性から、こんな話を聞きました。地下の祭壇でたばこを供えた途端、一緒に行った友達の姿が見えなくなったと。隣にいたはずなのにどれだけ捜しても見つからないため、諦めて帰ろうとすると、友達がすぐそばに突如、現れたんだそう。
「どこに行っていたの?」
と聞くと、
「ずっとそばにいたよ。“ここにいるよ”って叫んでいたのに気づかないんだもん」
と──なんでしょうね。たばこを供えると姿が消えてしまうみたいなんですよ。
呪うものに追いかけられて
え!? そういう体験をして怖くないかって? いや、どちらかというと、生きている人間の方が怖いんですよね。というのも、こんなこともあったんです。
愛知県名古屋市の東谷山にある尾張戸神社は、丑の刻参りで知られているんです。ぼくはそこに深夜、ひとりで訪ねたことがあります。すると境内には、つけたばかりとみられる泥の手形が。