40才の新鮮な卵子より30才の凍結卵子の方がいい
卵子凍結とは、将来の妊娠に備え、卵巣から採取した卵子を凍結保存すること。もとは疾患の治療で生殖機能の低下が心配される患者に対し行われていたが、2013年に日本生殖医学会が健康な未婚女性が将来の妊娠に備えて行うことを認めるガイドラインを決定した。小松原選手の担当医で『六本木レディースクリニック』の小松保則院長が説明する。
「卵子凍結がようやく認知されはじめ、自分のライフプランの1つに卵子凍結を希望される女性が増えました。女性は生まれたときにすでに卵子の数が決まっていて、増えることはありません。どれだけ見た目が若くても、新しく作られることのない卵子は、女性の年齢と同じだけ年を重ねているのです」
若い卵子と比べ、老化した卵子は染色体異常の確率が増え、受精しづらく、受精しても成長しない、着床しても流産しやすいなど妊娠出産率は低下する。
「例えば30才時の凍結卵子と40才のフレッシュな卵子を比較すると、卵子の染色体異常の確率は40才時の卵子の方が高く、妊娠率は凍結した30才の卵子の方が高くなります。生理がある限り妊娠できると思いがちですが、厳密にはそうではない。卵子を凍結保存しておくことで、将来妊娠を望んだときに、より若い卵子で体外受精を行うことができ、妊娠率は高まるのです」(小松院長)
血液検査で卵子の数が少ないことを初めて知る
小松原選手が受診したその日、予想外の事実に直面する。卵子の数を推定するAMH値【※血液検査により、AMH=アンチミューラリアンホルモンの値から、卵巣内に卵子がどれくらい残っているかを測る】を測定したところ、同年代の平均を大きく下回り、42〜43才と同等の0.76だったのだ。
「2017年に子宮内膜ポリープの手術をしたことがありますが、今回、AMH値について初めて知りました。これがミラノ・コルティナ五輪後だったなら後悔していたはずです。自分の体を知ることは大事だと思いました」(小松原選手)
小松院長も声をそろえる。
「よく誤解されますが、AMH値の低さは妊娠率の低さではありません。ただし、卵子の数が少ないということになりますから、妊娠できる期間が限られていることや、早めに妊娠をした方がいいなどの目安になる。治療計画はAMH値を目安に立てていきます。自分の体のことをきちんと把握することで、妊娠するまでにどんな環境や条件が必要なのかがわかるのです」