ベナン共和国出身のアイエドゥン・エマヌエルさん

関西大学のシステム理工学部で助教を務めるエマさん

 日本語学校では、漢字圏の国(中国や韓国)と非漢字圏の国を分けて漢字の授業をすることもある。非漢字圏から来た留学生にとって、漢字はエマさんがおっしゃるように絵にも記号にも見えるだろう。その不可思議な文字を、留学生は毎日何個も覚えなければならない。ほとんどの漢字には複数の読み方があるうえ、単語単位で読み方が変わるものもたくさんある(今日・昨日・明日、なんてのもそうだ)。会話には全く問題がなくても『漢字はちょっと苦痛』と言う非漢字圏の留学生は少なくない。

「たしかに、中級から上級になると単語の数も一気に増えてくるので大変だなとは思いましたけど、それより面白い、楽しいという気持ちのほうが強かったですね。日本語を勉強するからこそそういうハードルを越える喜びがあったというか、難しい分だけやってよかったと思いましたし、普通のベナン人にできないことが自分にはできるんだという誇りも持てた。漢字の勉強はすごく貴重な経験だったと思っています。

 ただ、私、本当に字が汚くて(笑)家でも毎日ノートに練習したんですけど、日本語の勉強で何が一番難しかったかって、きれいな字を書くことじゃないかな……同じクラスの中国人、韓国人は、漢字も含めて字がすごくきれいだったので、ああ、いいなあ、こういうふうに書ければなあ、って、上手なクラスメイトの書いたものを見て自分のを直したりしました。同級生の字を自分の理想にして頑張った気がします」

 字を書く機会が減った今、留学生から『字をきれいに書きたい/書きたいから苦労した』という話を聞いたことは、実のところほとんどない。エマさんの志の高さを感じる。もしかして、文法よりも書くことのほうが難しかった?

「文法は、そうですね、フランス語や英語と語順が違うので最初はちょっと違和感がありましたけど、授業がすごく分かりやすかったので書くことほど苦労はしなかったかな。普通にやっていたら徐々に喋れるようになった……うーん、いや、ちょっと記憶が曖昧かもしれないですけど(笑)」

第2回に続く

【プロフィール】
アイエドゥン・エマヌエル/ベナン共和国生まれ。2012年に大阪府立大学 現代システム科学域 知識情報システム学類に入学。卒業後、大学院人間社会システム科学研究科に進学し「第二言語コミュニケーション意欲を高める会話エージェントの開発」をテーマに研究を進め、博士号取得。現在は関西大学システム理工学部電気電子情報工学科助教。

◆取材・文 北村浩子(きたむら・ひろこ)/日本語教師、ライター。FMヨコハマにて20年以上ニュースを担当し、本紹介番組「books A to Z」では2千冊近くの作品を取り上げた。雑誌に書評や著者インタビューを多数寄稿。

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