男気あふれるふんどし姿も披露
本格デビュー作『無用ノ介』は第1話撮影に20日間
1969年、時代劇『無用ノ介』(日本テレビ系)で本格デビュー。さいとう・たかをさんの人気漫画が原作で、主題歌を美空ひばりさんが歌い、監修を東映の巨匠・内田吐夢さんが務めるという話題作。日本テレビのテレビ時代劇では初のカラー作品であり、伊吹さんは新人俳優ながらその主人公・無用ノ介に大抜擢され注目された。
「それまで受けて落ちたオーディションは、落ちて良かった。もし受かっていたら『無用ノ介』のオーディションは受けられませんでしたから(笑)。
ところが、殺陣や乗馬の指導を1か月間受けて意気揚々と撮影に臨んだのに、第1話を撮るだけで20日間ぐらいかかったんです。主人公を紹介する冒頭のカット──ローアングルで、僕が向こうから歩いて近づいてくるのを、足から顔へと撮ろうとするのですが、その歩き方が『違う』『もう1回』と何十回とやり直しになったんです。最初からこうしろ、ああしろ、とは教えてくれない。自分で考えて身体で作りあげていけ、ということだったんですね」
『無用ノ介』には今も根強いファンがいる。無用ノ介は隻眼(せきがん)の浪人だ。演じるのにも苦労が多かったのではないだろうか。
「そう、片目だと遠近感がよくわかりませんから。そんな状態で馬に乗ったり、屋根から飛び降りたり、チャンバラもしなくちゃならなかったので、今考えるとケガをせず、よくやり切りましたよね(笑)。23歳と若かったし、選ばれたことが誇らしく、思い切って演じるばかりで恐怖感はありませんでした。
この『無用ノ介』の寡黙なイメージが後々まで続いたんでしょうねぇ。かっこ良かった? よく言われるんですよ(笑)。それは冗談として、内田監督には最後の打ち上げの席で『君はまだ俳優じゃない。俳優の『は』の字を卒業しただけなんだからな』と釘を刺されました」