子供達の推理も十分に通用する
小学生最後のこの時期。6年生特有の不安や男女の微妙な意識、大人に対するモヤモヤを3人もまた抱え、中学受験を控えたサツキや、自分だけの強みを見つけたくて焦る凡庸なユースケ。なかなか本性を掴ませない変人キャラながら、最近は彼らが〈魔女の家〉と呼ぶ家の主、通称魔女に借りた本がもとで読書にめざめ、ミステリの代表的な手法の解説までしてくれるミナや、他の同級生達の、逞しくも弱くもある描写が絶妙だ。
「僕も図書室で借りたホームズやルパンの本に夢中な小学生でしたけど、当時はミステリとは知らずにヒーロー物として読んでいて、そこから本格に行くこともミステリ通になることもなかった。初心者でも読めるように何かと説明を入れたがるのも『屍人荘』以来の僕のやり方で、たぶんミステリ慣れしてなかった頃の記憶のしわざでしょうね。
問題は彼ら6年生がどこまで考えられるかで、でも周りの親達に聞いてみたら、いや、子供は大人が考えないことまで考えてるよって。それで彼らを甘く見るのはやめたし、3人が子供達なりの理屈でルールを作り、説得力ある答えを導ければ、その推理は十分通用する。例えばマリ姉の人となりを私達は事実だと信じて推理しますと表明することも、1つの秩序になるんです」
本書はミステリの意味を問うミステリでもあり、特に論理という言葉の響きには改めて考えさせられた。
「それこそゾンビみたいな際物を出しといて、この世界のルールはこうと、読者に納得させて話を進めるとか、それほど怪しげなことがミステリでは平然と行なわれ、その清濁含んだところに面白さもまたある。論理も所詮は論理にすぎず、時には疑ってみるくらいの方がいいんだと思います」
子供であれ大人であれ、推理の主より質を問うフェア精神が、従来の怪奇譚とは全く違う結末へと導き、この愛すべき探偵達の事件簿は本格ミステリそのものを次の段階へと進める。「ミステリって何やろ?」という、永遠の謎のもとに。
【プロフィール】
今村昌弘(いまむら・まさひろ)/1985年長崎県生まれ、兵庫県育ち。岡山大学医学部卒。放射線技師として勤務する傍ら執筆を続け、29歳から投稿生活に専念。2017年に『屍人荘の殺人』で第27回鮎川哲也賞を受賞、「このミステリーがすごい!」、週刊文春ミステリーベスト10、「本格ミステリ・ベスト10」、第18回本格ミステリ大賞の4冠に輝き、2019年に映画化。『魔眼の匣の殺人』『兇人邸の殺人』とシリーズ化された他、ドラマ『ネメシス』の脚本協力も。172cm、73kg、B型。
構成/橋本紀子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2023年10月20日号