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60代女性記者が見た「芸能界と性被害」 タクシーで迫ってきた作詞家を「バガが、おめえは」と突き飛ばした

タクシーで

タクシーで迫ってきた作詞家

 世の中で大きな話題となっている、芸能界の性加害。『女性セブン』の名物ライター“オバ記者”こと野原広子は、その一端を目にしたことがあるという。オバ記者が、「私が見た芸能界と性被害」について綴る。

 * * *
 66年間の人生で2度、芸能界に急接近した時期がある。しかもそれは、雑誌記者としてインタビューをするときのよそゆき同士の顔ではなく、ほぼ身内として。1度目は19才から20才までの1年間で、気がついたら片足を突っ込んでいたの。

 故郷・茨城から上京後、靴屋の住み込み店員として1年間勤めた後、マスコミの専門学校に通うことにした私は、道路に面したガラス張りの喫茶店の「ウエートレス募集 時給400円」の貼り紙に目を留めたのよ。だけどそのビルはちょっと変わっていて、窓という窓に、当時の青春スターやアイドル、大御所演歌歌手のポスターが貼ってある。

「あれは何ですか?」と喫茶店の美人ママに聞くと、「ああ、上の階が芸能事務所だからねぇ」と事もなげ。「じゃあ、ここに芸能人が来るんですか?」と田舎者丸出しで聞くと、「そりぁ、来るわよ。だからどうってことないけどね」とそっけない。でも、なんだかんだとやり取りしているうちに「雇ってやるわよ」ということになったわけ。

 で、芸能人は本当に毎日のようにやって来て、焼きうどんをすすったり、1日限定25食のカレーを「まだある?」と言って覗いたりする。かと思えば、アイドルがマネージャーに仕事のグチをこぼしていたりして、まぁテレビで見るのとは大違いよ。

 そんなある日のこと。仕事を終えて帰ろうとしたらママが「○○さんがあんたを食事に連れて行ってくれるって言ってるけどどうする?」と聞いてきたの。「○○さん」とは、東北弁を話すおじいちゃんで、数日前にエレベーターの中で話したときに「作詞家」と言っていた。彼が言う“代表曲”は知っているような知らないような。とにかく20才の私から見たら、親世代というより祖父母世代だ。

 どういうことかピンと来ないでいると、ママが「まぁ、あんたも生活大変そうじゃない」と言うんだわね。当時男性経験はゼロだったけれど、ママが言わんとしていることはわかったの。で、誘いを受けることにしてみたわけ。それなりの覚悟はしたのよね。案の定、○○さんは、「きみの笑顔がいいねぇ」とお店に入るなり、食事もそこそこにずっと私の手を握り出した。

 と、ここまでは私もニヤニヤ笑っていたけど、帰りのタクシーに乗り込むと同時に「ああ、俺にはもうお前しかいない」と言って、尖らせた唇を寄せてきたから万事休す。「バガが、おめえは」と茨城弁で突き飛ばしていた。○○さんは「チェッ、冗談だよ。冗談わかんない?」と語気を強めて、まるでケンカだよね。

 しかし、なぜこうなったのか。私は当時、月末のたびに体重が落ちるような貧乏暮らしに疲れ果てていたし、ファザコンだから年の差は気にならない。ただ、○○さんの口から出るニセモノの口説き文句にがまんがならなかった。「愛しているよ」「きみのことばかり考えているよ」って、3日前に会って立ち話しただけで言うか? それを信じたフリをするほど私は大人じゃなかったんだね。

 2度目の芸能界入りは40才になるかならないかのとき。あるお笑い芸人さんのマネージャーをすることになったの。取材で出会って「芸能界の人の考え方がいまひとつわからない」と話したら、「じゃあ、しばらくマネージャーをしてみる?」と言ってくださったのよ。彼から聞く芸能界の人間模様は面白く、仕事も順調。あっという間に3年目に入ったある日のこと。

 何度か仕事をいただいていた企画会社の社長と2人でイベントの帰りに新幹線に乗ったら、「もうそろそろいいんじゃないか?」と出し抜けに言うの。「何がですか?」と聞いたら、「きみだって子供じゃないんだからー。それに××さん(その芸人さん)に対してマネージャーのきみとぼくが一枚岩だって知らしめた方が仕事がしやすいだろう」だって。

 社長は大真面目な口調で、口説かれているというより、業務提携を持ちかけられているみたい。色気も素っ気もない。対する私も、「んんん〜ん、そうですかぁ。んんん〜ん」と唸るだけ唸って、窓の外の景色をただただ見ていたんだから、どっちもどっちかしら。

 そのとき思ったんだよね。芸能界は何か製品を作るわけでもないし、商品を売るわけでもない。人と人のつながりだけで時にはとてつもない大金が動く。その不安定さの中で、性行為が“実印”になったり“認印”になったりするのかしらと。私の場合、“押印”をしてまで欲しいものがなかったからしなかった。それだけのことだ。

 芸人さんや劇団員さんたちは当時は、たとえかなり無茶な状況でも「性被害」だの「枕営業」だのと角を立てるほどのことではない、と捉えていた人が多かったんだよね。まともな神経ではいられない。そう思うと同時に、そこは人間界の縮図。時々とんでもない人格者の話も聞こえてきて、ちょっとホッとするんだわ。

【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。

※女性セブン2023年11月2日号

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