ひょっとしたら、碁会所に行ったら楽しいかもしれないし、カラオケスナックがいいのかもしれない。あるいは、習い事をしたらいいかもしれない。それらは一度やってみないとわからないわけです。
いくつか試してみた後、1回や2回挫折したからといって「やっぱり俺って合うものがないんだ」と思ってはいけません。100回試せば、1つくらい当たりがあるはずです。定年後にやることを思いつかないなら、むしろ今からいろいろ試せばいいと思います。
そのように「試す」ことのメリットは、老年医学的にも説明できます。脳の中で意欲や創造性などを司る「前頭葉」は加齢とともに萎縮し、機能が衰えますが、60代以降でも、これを鍛えることで活発化することができます。その最適な方法こそ、いつもとは違う道を散歩したり、行きつけの店以外に行くなど、日々「新しい体験」を積み、前頭葉に刺激を与えることなのです。反対に、いつも同じ「日課」を繰り返すだけでは、前頭葉は働かないままになってしまいます。
「収入がなくなる」は勘違い?
「定年後、収入がなくなるのが怖い」という人も多くいます。「貯金をなるべく減らさないために、現役時代にしていたゴルフなどの趣味は諦めなければいけないのではないか」という発想になる人もいるようです。しかし、そうした考えの背後には大きな勘違いがあると思います。
数年前から「老後の生活資金2000万円不足問題」が話題ですが、そもそも、「老後の蓄え」は、自分のしたい生活を送る上で年金で足りない分を補うためのものです。ところが日本の高齢者の多くが「年金の範囲内で暮らさないといけない」「貯金を減らしてはいけない」と思い込んでいます。
でも、貯金を減らさないように暮らしては、なんのための「老後の蓄え」かわからなくなりませんか? まるまる、子供に残そうというつもりなのでしょうか。平均寿命が80歳を超えた今、自分が亡くなる頃には子供が60代を迎えているケースが多いはずです。定年前後の子供に、親がお金を残す必要はどこまであるのでしょうか。
つまり、「老後の蓄え」は減らしていくものであって、自分の好きに使っていいのです。その発想がないから、退職金が2000万円くらいもらえるとなった時に、「老後資金2000万円問題があるから退職金を使わずにおく」となるわけです。時間はいくらでもあるのに「趣味のゴルフもやめよう」となってしまう。