「食中毒を起こしては大変ですからね。子どもの命にかかわりますから、それはどこも変わらず厳しいと思います」
学校給食には大きく分けて三つある。学校内の調理施設で調理する「自校調理」、いくつかの学校が共同で調理施設を運営する「共同調理」、そして近年主流となっている民間業者が調理して各校に配送する「民間調理」である。筆者の小中学生時代は自校調理であった。いわゆる「給食のおばさん」と交流することもあった時代である。
「私は民間(業者)でしたから給食のおばさんのイメージはないですね、淡々と施設で仕事をこなす感じです。腰痛も悪化しましたし、残業や講習会など調理以外の時間もありました。昔のイメージとは全然違うと思います」
彼女の話す「昔のイメージ」とはその「給食のおばさん」ということになる。とくに昭和の「給食のおばさん」だろうか。筆者も地元で大人たちの「給食のおばさんは楽で高給取り」というやっかみ半分の話をうっすら憶えている。かつては公務員の正規職が多く、自治体にもよるが年収600万円だ、800万円だ、けしからん。と騒がれた時代もあった。いまや調理員どころか栄養士すら委託会社の栄養士に代わった地域も多い。
「私の場合はパートで時給950円とかですよ。主婦ばかりでしたから扶養の範囲内で働く前提です。夏休みとか連休は仕事がありませんし」
地域にもよるし、現在では改定もあり当時そのままということはないが、それにしても安すぎる。子どもたちの食の日常を、その将来を支える多くの人々が、その大半が非正規かつ安い時給で働いているのが現実である。
「誰もが常勤の公務員でたくさん貰えた時代、それこそ私の子ども時代だったらあったのでしょうけどね」
昭和の公務員叩きが平成、そして令和にも引き継がれ「給食のおばさん高給取り伝説」はいまだにネットの一部に跋扈している。とくに、いわゆる現業公務員は格好の「公務員叩き」の道具であった。
その他で知られるのが路線バスの運転手だろうか。「バスの運転手が高給は許せない」もまた、一部政治家による公務員叩きの人気取りに利用された。これについても筆者は『すでに運転士が1万人不足 路線廃止が続くと予想されるバスは「公営にするしかない」のか』で触れている。当たり前の日常には当たり前の賃金と待遇を用意しなければならない、それを政治や経済を主導する立場の人間が忘れたところに、この国の「失われた30年」がある。
入札を最後の土産に潰れる企業もある
それでは給食はなぜ、まったく利益の出ないような仕事になってしまったのか、かつて給食事業を手掛けた企業の社員から話を聞いた。いまでは撤退、社内でもその事業は「なかった」かのような扱いだという。