リビングの薪ストーブの前でくつろぐ長塚
「見なきゃいけないと思うんだけど、ドラマは見る習慣が無くなっちゃって。映画も新しい作品は観ていません。それよりかは、たとえば映画評論家の蓮實重彦さんの本『ジョン・フォード論』なんかを読んだほうが面白い。僕にとってはそれでじゅうぶん、いいんですよ」
それは新作が「つまらなくて、みる価値がない」という意味ではないのだという。
「ドラマも映画も演劇も、90%以上若い人のものだから。若い人が彼らの感性でもってやって、若い人が観る。これは映像芸術の宿命ですね。残りの10%未満を僕ら年配者が出演したりするんだけど、年配者は黙ってなさい、というようなものですよ。年を取った人間が偉そうなことを言いたがるんだけど、それはお門違いだなあって気がするね。斬新なものを作るとなると大変。若い人が命をはってやっていることだから、僕にはよくわからなくても良いものができていると思います。
むしろ、年配者がメインの作品の出来は、若い人に追いついていないんじゃないかなって気もしないでもないの。偉そうなこと言ってぼやぼやしてないで、ちゃんとやった方がいいのかもしれない。ただ、さっき言ったようないい時間の流れ方に身を委ねたい、という思いもあるから、作品に費やせる時間は限られている。身体もガタガタだし(笑)。
だったら逆に、追いまくられるようにバタバタあちこちに手を付けるんじゃなくて、余生を何年使ってもひとつのことをゆっくりかかるぐらいの心づもりじゃないと、年配者はつまらんよね」
さまざまな思索にふける長塚さんだが、夕方16時頃からテラスでゆっくりとる夕食も楽しみのひとつだ。
「僕は料理をしないので、『今日は何を作ってくれるのかな』って楽しみ。肉が好きで、以前は300グラム、今でも半分は食べます。お酒も何でも好きですよ。ただ、今はもう量はほどほど。外へ出かけて飲むことはほとんどなくなりました」
コロナ前の多忙な日々も、できるかぎり家できちんと食事をとっていたという。料理好きの夫人の手料理が、長塚さんの体調を整えてくれたようだ。
「いたって健康ですね。睡眠もしっかり。高齢になると眠りが浅くなるというけど、そんなことはないですね。寝つきもいいし目覚めもいい。起き抜けにストレッチなどをするのが習慣です」
多忙さから自身を開放し、「よく食べ、よく眠る」という“健康生活の見本”のような毎日を送っている長塚さんなのだった。
(後編に続く)
◆取材・文/中野裕子 撮影/山口比佐夫