「農用地土壌汚染防止法などに基づき、これまで約50年間、対策が講じられて莫大な費用が投じられています。しかし、カドミウム除去は容易ではありません。従来のメインの対策は客土(他地域からの土に入れ替えること)ですが、莫大なコストがかかるうえ、土を入れ替えるので、農家が長年、養分や物理性、土壌微生物などを整えてきた土づくりの蓄積が失われてしまうデメリットがあります」
すでに莫大な予算と手間をかけて対策をしてきたが、前述の通り、海外では日本より低いカドミウム基準値を設定している国がある。さらなる安全を目指し、今後のコメ輸出戦略も視野に入れれば、カドミウムを吸収しない品種への期待は大きい。しかも、あきたこまちRには、もう一つ大きなメリットがある。
「コメに関しては今、遺伝毒性発がん物質とされる無機ヒ素の吸収も問題になっています。カドミウムを減らす栽培法を採ると無機ヒ素が増え、無機ヒ素を減らそうとするとカドミウムが増えるというトレードオフの関係にあり、両方を減らすのが非常に難しかった。まだ農家での栽培は始まっていませんが、あきたこまちRなら、無機ヒ素を減らす栽培法をとることで、カドミウムも無機ヒ素も同時に減らせる可能性が高いのです」
だからこそ、あきたこまちRは画期的と言えるのだ。
DNAに欠損があると聞くと、無条件に「怖い」と感じてしまう人もいるが、我々が今食べている農作物は、自然界の放射線や紫外線、人工の放射線などでDNAが欠損して突然変異を起こし、「味が良くなる」「毒性を失う」「育てやすくなる」など、人間にとって都合良く変異した植物を選んで育ててきたものが多く、原種からはかけ離れているのが普通だ。
田んぼや畑で育てている農作物の中にも、ごく一部で突然変異が起きているが、それを知らずに我々は食べている。DNAの欠損を気にしていたら、食べるものがなくなってしまう。
長年の技術の蓄積、研究の成果である画期的な新品種に、風評被害や差別につながるようなレッテル貼りをする行為は、慎みたいものである。
◆取材・文/清水典之(フリーライター)