動きやすくなったヒロインたちが走り抜ける
では現代のドラマのヒロインたちはどんな靴を履いているのか。改めて足元に注目すると、圧倒的にスニーカーや、ヒールのないぺたんこ靴、もしくはローファーなどいずれも歩きやすい靴を履いていた。ドラマ衣装を手掛けるスタイリストの友人が言う。
「確かにヒールのある靴はリースしなくなったし、制作サイドからリクエストもなくなったかもしれない。ああ、怖そうな女性が出てくるとかには使うよね(笑)。代わりにここ数年でよく使うのは、コンバースの白のローカットスニーカー。大学生でも主婦の役でも、履かせているかなあ」
最近放送されたドラマだと『マイ・セカンド・アオハル』(TBS系)の主役、白玉佐弥子(広瀬アリス)もコンバースを履いていた。私自身、20代は当たり前のようにハイヒールを履いていたのに、いつの間にか“シューズスタメン”から外れている。最近ヒールがある靴を履いたのは、冠婚葬祭くらいだ。それも直前まではスニーカーで移動して、会場で履き替えたほど、ハイヒールは非日常となっている。周囲にもそんな女性が多く見受けられる。
今回話を聞いた2人のスタッフの話を統合すると、日常的に女性が愛用しているシーンは見られることはなさそうだ。おそらく今後の映像作品でも、ヒール音は“特別な演出”として扱われるのではないか。サイコパスの女性役、権力のある女性役、就職活動に奔走して疲れた若い女性役……。
そこに「笑顔」は想像できないけれど、これが令和のスタンダード。少し寂しい気もするが、そのぶん、動きやすくなったヒロインたちは足音をことさら立てずに街中を闊歩して、そして、走り抜ける。
【プロフィール】
小林久乃(こばやし・ひさの)/エッセイ、コラムの執筆、編集、ライター、プロモーション業など。著書に『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ)、『45センチの距離感 つながる機能が増えた世の中の人間関係について』(WAVE出版)、『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)がある。静岡県浜松市出身。X(旧Twitter):@hisano_k