映画『男はつらいよ』「寅次郎紅の花」制作発表記者会見(時事通信フォト)
●姉ちゃんは、何のために勉強をしているんだい?
・第16作『男はつらいよ 葛飾立志篇』(1975年)脚本/山田洋次、朝間義隆
寅の娘だと名乗る順子(桜田淳子)が上京してきた。誤解は解けたが、その後、考古学を研究する礼子(樫山文枝)と出会ってたちまち熱を上げた寅は学問を志す。
「大学助手の礼子(樫山文枝)を戸惑わせる問いかけ。当たり前の言葉の裏に本質を突く鋭さが光ります。既成の枠にとらわれないアウトサイダーだからこそ発することできる言葉です」
●あぁ、生まれて来てよかったな、って思う事が何べんかあるんじゃない。そのために生きてんじゃねぇか
・第39作『男はつらいよ 寅次郎物語』(1987年)脚本/山田洋次、朝間義隆
父が亡くなり、寅を頼ってきた少年を連れて母親を探す旅に出た寅。その道中で寅は隆子(秋吉久美子)と出会う。まるで家族のように行動をともにする3人だったが……。
「満男(吉岡秀隆)に『人間は何のために生きているのか』と聞かれた寅さんの妥協のないリアリズムに衝撃を受けました。私の心に残り続け、歳を重ねた今になってその意味がわかるようになりました」
【プロフィール】
名越康文(なこし・やすふみ)/1960年生まれ、奈良県出身。精神科医、映画評論家。学生時代から映画『男はつらいよ』に心を動かされる。近著『とげとげしい言葉の正体はさびしさ』など著書多数。
※週刊ポスト2024年1月1・5日号