社会学者の橋爪大三郎氏(右)とジャーナリスト・峯村健司氏はこれからの中国をどう見る?
ナンバー2不在の弊害
峯村:中国国内のリスクも考えておかなければならない。昨年3月に習近平体制が3期目に入ってから、新たなリスクが出てきた。「プランB」、つまり習近平に何かあった時のナンバー2がいない。これまでは党の政治局常務委員の中に国家副主席とかナンバー2やナンバー3がいて、トップに何かあった時は継ぐ体制があった。
だが、習近平は後継候補をほぼ粛清したり引退に追い込んだりしたため、後継候補が誰もいない。200万人の軍の指揮権を一手に握る習に何かがあったら、たちまち軍が反乱を起こしかねない。
橋爪:まさしく、習近平に何かあった時が最大のリスク。心臓麻痺も、暗殺だってあり得ます。そうなれば、たぶんこうなる。生き残った政治局常務委員が党中央の会議を開く。そして後継の党軍事委員会主席を選ぶ。それを習近平の死亡と同時に発表する。それで党が軍を把握できる。でも後継選びが揉めて、政変になり得る。
峯村:中国の引退した古い幹部からこう言われたことがある。「胡錦涛派、江沢民派でドンパチやっている時は、異変は起こりづらい。なぜなら、誰が敵かわかれば予測がしやすい。一番怖いのは、敵が見えなくなった時だ」と。まさに今の習近平体制は誰がクーデターを起こそうとしているのか、誰が暗殺をしようとしているのか「見えない状況」になっている。
だからこそ、橋爪さんがおっしゃった暗殺の危険性は高まっている。70歳だから病気だってあり得る。そこから大混乱が始まる。経済的な混乱より、軍を誰が統括するのか、核兵器の管理やミサイルをどうするかなど軍事面や統治機構の大混乱のほうがはるかに危険です。(文中敬称略)
(了。前編から読む)
【プロフィール】
橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう)/1948年、神奈川県生まれ。大学院大学至善館教授、東京工業大学名誉教授。著書に『おどろきの中国』(講談社現代新書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)、『中国共産党帝国とウイグル』『一神教と戦争』(ともに集英社新書)、『隣りのチャイナ』(夏目書房)など。
峯村健司(みねむら・けんじ)/1974年、長野県生まれ。ジャーナリスト。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。朝日新聞で北京・ワシントン特派員を計9年間務める。近著に習近平国家主席の戦略ブレーン、劉明福・中国国防大学教授が書いた著書を監訳した『中国「軍事強国」への夢』(文春新書)。
※週刊ポスト2024年1月12・19日号