実際に新設のネット部署の業務が開始されると、上司はデスクで暇そうにしながら、ネットなんか訳がわからないと笑っている。彼らを見て、若手が「年配者の延命装置」のように扱われていると感じた幸田さんは、迷いもあったが退職するしかなかったと話す。
「まさに年金のような構図でしょう。年配者ばかりが優遇され、これから人生設計をしていかなければならない若手は置き去り。大企業だろうと給与が高かろうと、こんな会社にはいるべきではないと強く思いました」
幸田さんが会社の未来に不安を覚えた上司と違って、実務は覚束なくても、社内の煩雑な折衝や予算獲得などに積極的に関わり、部下たちが働きやすいように調整に努力してくれる管理職もいただろう。だが、静かに定年を迎えることだけ考えて良くも悪くも何もせず過ごす年配者が少なくないのも事実だ。残念ながら幸田さんの上司は後者だったのだろう。景気が良い時代であれば、そういう消極的管理職のアラは会社全体の勢いで覆い隠されたのかもしれないが、昨今の縮小傾向にある経済状態では、仕事量は倍なのに給与や待遇が変わらないと不満を募らせることになる。
新規事業に消極的な上司たち
人気就職先ランキング上位常連である大手保険会社を一昨年に退職し、現在はベンチャー企業の役員となった保田龍樹さん(仮名・20代)も、かつて働いていた大企業の意向に憤りを隠さない。若手社員の負担ばかりが増え、仕事をするつもりがあるのか微妙に見えるのに会社を辞めず、かといって新規事業に後ろ向きな姿勢の上司たちを若手がフォローしなければならない実情を、これまた「まるで年金制度のようだ」と批判する。
「上司たちの多くが、どうせ今よりよくなることはないと業務に消極的で、まずは現状維持、そして逃げ切りを狙っているようにしか思えませんでした。一方、早期退職制度で退職金をたくさんもらい、外部会社を立ち上げ、私たちの仕事を横取りするような上司もいました。年金と同様で、現場で働く若手が頑張らなければ上司たちの給与だって補償されないはずなのに、そこはないがしろにされる。そんな会社に居続けても、搾取されるだけです」(保田さん)
嫌気がさした保田さんは、同僚とともに退職し、新会社を設立。現在は役員を務めるが、収入は会社員時代の半分以下になった。それでも「搾取され続けるよりはマシ」と笑う。
端から見れば「大企業にいたのにもったいない」選択をしたように思える3人だが、将来を見据え、考えに考え抜いた結果が「退職」であった。日本に存在するほとんどの企業が「中小企業」であることを考えると、3人は確かに恵まれていたのかもしれない。だが、そんな恵まれた立場にいても絶望してしまうほど、すでに長く大企業で働くベテラン社員と、若手の思考のズレは是正不可能な域にまで達しているということなのだ。