9年前に叡敦さんがB氏に届けた手紙(一部抜粋)

9年前に叡敦さんがB氏に届けた手紙(一部抜粋)

「これは私の字ですね」

 A氏がいちばん信頼する弟子であるとしながら、その行状ついて「知らなかった」と距離を置く言い方をする。では、2018年にタクシーのなかで100万円の入った熨斗袋を渡したことについてはどう説明するのか、と問うと「それも覚えていませんね」と応じる。そこで筆者は、叡敦さんの取材時に撮影した「御見舞い/身内」と書かれた熨斗袋の写真を示した。

「ああ、これは私の字ですね」

──100万円入っていたそうですけれど。彼女は「口封じだ」と理解したそうですが。
「……わかりません。それは本人のことやからね。お金はだいぶ渡していますから」

──何の意図でお渡しになったんですか。
「御見舞いやから。彼女はずっと病気をしとったから。私は応援していましたから」

──それは鬱病やPTSDの、ですか。
「それは知りません。Aが面倒を見ているからね」

──病気の原因はAさんの行為ではありませんか。
「いや、Aくんからは『人助けをしてます』と言われていましたから。だから私は『ちゃんと病気は治さないかんぞ』いうて」

──でも彼女の手紙にはA氏との関係の苦しみを何度も書かれています。その訴えをBさんが相手になさらなかった、と。
「それは、そう……かもわかりません。私が(相手を)してなかったのかもわからない」

──それについていまどうお考えですか。
「それは記憶がないんですよ、正直。びっくりしているだけで。私は2人が結婚するものだとばかり思っていたから」

──どうしてですか。(叡敦さんには)すでに結婚している人がいるのに?
「いやいや、別れて、(A氏と)一緒になる、と」

──Bさんが原因をつくった問題が表沙汰になるのがまずいからお金を渡したのでは?
「そんな細かいことは覚えていませんな、正直。だからびっくりしたことです。Aがいうてたのは『彼女は大変だから命を懸けて守ります』と。だから私は『ちゃんと病気は治さないかんぞ』というて(お金を渡した)」

──叡敦さんはまだPTSDに苦しんでいます。
「まあねぇ、病気ということでかわいそうに、というだけで」

 そう答えて、大阿闍梨のB氏は護摩焚きの御堂に向かった。B氏には性暴力などからの救済を求める直訴の手紙が届けられている以上、救済してくれないことを責められた直後に差し出したお金が「口封じ」ではなく「応援だった」という説明がどこまで説得力を持つか。

 天台宗務庁に対し、筆者はB氏の行いと主張されている内容についても見解を問う質問を送ったが、「現在、天台宗の宗規に照らし合わせながら、対応を検討しております」というのみ。懲戒審理申告を正式に受理するかも含めて対応を検討中だという。

 熱心な信仰を持つ者の訴えにどう応じるのか、宗門の対応も問われている。

【了。前編から読む

◆取材・文/広野真嗣(ノンフィクション作家)

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