そもそもキリンビールの元社長でキリンHDの現会長、磯崎功典さんが70歳、キリンHD社長の南方健志さんが62歳である、「老人」がどこまでの年齢を指すのかという問題もあるが、何を取ってつけたとしても、悪い意味でインパクトを与えることはあってもまあ、普通は使わない言葉である。
「ネットでどこの誰かもわからない立場で書き込んだり、さっきも言いましたが家とか飲みの席とかごく内輪の中で言ったりは勝手にすればいいと思うんです。でもこれ、キリンの『氷結』を買ってもらうための広告というのが大前提じゃないですか、私も古くからのネット民ですから老害は死ねとか、そういうノリというか、ネタだなんだもわかりますけど、買っていただくのにそういうことを繰り返し言ってる人って、無理ですよ」
言った人に対してはそれ相応の態度になる
キリンの「氷結」は大ヒット商品で多くの愛飲者がいる。当たり前だが高齢者だって多い。ターゲット層として高齢者自身はもちろん自分の両親や祖父母が含まれることもあれば、既出の通り職場や学校、ありとあらゆる社会に存在する。日本中、世界中に存在する。だからこそ今回の大炎上以前から成田悠輔さんの発言は日本のネット界隈にとどまらず世界中に報じられた。もはや老人がどうこうではなく、人間に対する憎悪(ヘイト)であると。
筆者の恩師、元大学教員で自身も「老人だけど、いい?」と笑う70代男性はこう語る。
「喩えどうこうの話じゃなくて、どうして『集団自決』って使ったのかね。だって日本人は集団自決で大勢死んだんだ。肉親や親しい人が死んだんだ。南方で、満州で、沖縄で。それでも『集団自決』って言うのは勝手だけど、言った人に対してはそれ相応の態度になっちゃうよね。実際、キリンもそう判断したわけだし、多くはそうだったわけだ」
サイパンのバンザイクリフ、沖縄のチビチリガマ、そして満州開拓団を始めとする大陸における悲劇。例えば兵庫県豊岡市但東町の高橋地区から旧満州に渡った開拓団500人は旧ソ連軍の侵攻を前に集団自決に追い込まれ、298人が死んだ。こうした家族が、私たちの先人たちがたくさん、集団自決で死んだ。
また旧樺太、真岡郵便電信局の電話交換手の女性たちが「皆さん、これが最後です。さようなら、さようなら」と職務を果たして集団自決した悲劇はよく知られるが、たくさんのこの国の記憶は、想いは消えていないし、消してはならない。「民族の記憶」とでも呼ぼうか。
「高齢化社会の問題を負の面でも語ることは大切だけど、わざわざ『集団自決』って表現を使う必要はないよね。何度も使ってるのは事実だしね」
だからこそ、「それはよくない」とネット民も左右関係なく声を上げた。世界中もおかしい、と声を上げた。誰もが高齢者となる定め、擁護側で冷笑したとて「お前も高齢者になったら自決するのか」である。老害は確かにあるのかもしれないが「老害」ではなく老いも若きも等しく迷惑な人は「人害」のように思う。