松井秀喜氏らを育てた山下智茂監督の息子、山下智将監督(撮影・杉原照夫)

松井秀喜氏らを育てた山下智茂監督の息子、山下智将監督(撮影・杉原照夫)

奥川恭伸の球速を全球記録して…

 1962年の創部以来、初となる女子マネージャーはいかにして誕生したのか。その経緯がなんとも興味深い。

 昨年4月に入学した鈴木紗弥さんが振り返る。

「小学3年生の頃にNHKの甲子園中継を見て、星稜の野球部のことを知りました。当時は野球のルールなんて分からなかったんですけど、私の中では『星稜=高校野球』で、大ファンになりました」

 そして小学6年生にあがる直前、2019年春のセンバツに出場した星稜を応援するため、初めて甲子園に足を踏み入れ、習志野(千葉)戦を観戦した。

「大興奮でしたし、奥川恭伸(現・東京ヤクルト)さんや山瀬慎之介(現・巨人)さんが活躍されてて、もっと星稜が大好きになりました」

 夏の甲子園が近づき、鈴木さんは小学校の夏休みの自由研究で「星稜高校野球部」を題材に選ぶ。夏の石川大会の全試合に足を運び、甲子園にも3回戦の智弁和歌山戦や決勝の履正社(大阪)戦に駆けつけた。

「スコアブックのつけかたは分かっていなかったんですけど、奥川さんの一球一球の球速をルーズリーフに書き出し、攻撃側の結果を記録し、最後に自分の感想を書きました」

 小学生の彼女なりに敗因を分析し、星稜が甲子園の決勝でなかなか勝てない理由を探った。恥ずかしがり屋の彼女に代わって、山下監督が携帯電話に保存していた自由研究ノートを見せてもらったが、A4のノートに字がびっしりと書かれてあり、100ページを超える力作だ。金沢市に隣接する野々市市に暮らす彼女の進学先も、当然、星稜以外、考えられなかった。

「小学生の頃から、星稜でマネージャーをやるのを夢見ていました。もちろん、その夢が叶えられない伝統が野球部にあることも知っていました」

 無事に合格し、入学式の数日後にグラウンドに足を運び、無理を承知で山下監督に直談判した。

「マネージャーをしたいです」

 山下監督は前述の通り、野球放送部を勧めた。鈴木さんは改めてこう訴えた。

「野球放送部ではなく、マネージャーがやりたいんです」

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