つばさの党から立候補した根本良輔候補は各陣営の街頭演説に突撃を繰り返した(撮影:小川裕夫)
こうした根本候補の突撃によって、まともな選挙活動ができないと判断した候補者たちは、通常はあらかじめ時間と場所を告知していた街頭演説の予定を非公表とする対策を取る。こうして東京15区は、候補者のHPやSNSを見ても街頭演説の予定が告知されないという、ステルス選挙になった。
選挙は民主主義を支える根幹であり、それを妨害する行為は現代社会において許されない。しかし、法的に根本候補およびつばさの党の突撃を制止することはできず、最終的に警告にとどまっている。
こうした事態を受け、4月22日の国会審議では岸田文雄首相が一般論と断りながらも、「選挙演説を大音量で妨害するなどの行為には対策が必要」と述べ、翌4月23日には松本剛明総務大臣が定例会見で処罰の可能性について言及。そのほか、各政党の幹部からも公職選挙法を改正するような趣旨の発言が相次いだ。
筆者の経験に照らしてみると、これまでの選挙でも他陣営を“妨害”する行為は大なり小なりあった。妨害と表現しているが、各陣営は巧妙に公職選挙法スレスレで、それを選挙“妨害”と簡単に断定できない。
例えば、2019年の参議院議員選挙では安倍晋三元首相の応援演説に対して2人のギャラリーが野次を飛ばし、周囲で警戒していた警察官に排除された。この件は訴訟にもなり、「野次は“表現の自由”の範囲内」と判決が下されている。
こうした野次と、拡声器を使った大音量による突撃を同列に論じることはできない。どこまでが大音量の範囲になるのかは個々の感性によるところが大きく、簡単に線引きはできないからだ。
また、街頭演説において大音量での応援は許されている。それに対して大音量での批判はNGとなると、応援と批判の線引きもしなければならなくなる。
ほかの候補者が街頭演説をしている横で、街頭演説をする行為そのものが選挙戦の邪魔をしているという解釈もできるが、それだと延々と同じ場所で街頭演説をする候補者も出てきてしまう。実際、街頭演説開始の5~6時間前から場所取りをしている陣営もある。こうなると、スタッフを多く抱える陣営が有利になる。
また、街頭演説の場所がバッティングしてしまうこともある。今回の東京15区補選でも最終日となる4月27日の豊洲駅界隈は多くの陣営が街頭演説をするために、各陣営のスタッフが場所取りに奔走していた。