映画『九十歳。何がめでたい』より

映画『九十歳。何がめでたい』より(C)2024映画『九十歳。何がめでたい』製作委員会

電話取材に「私はそんなにヒマじゃない」

 佐藤さんの仕事場はご自宅。娘の響子さんの家族が2階に住む2世帯住宅だ。秘書はおらず、取材依頼から迷惑電話の対応まですべて自身でする(時々訪れるお手伝いさんが新たな嵐を呼ぶ『九十八歳』の一編「ヘトヘトの果」もぜひ読んでほしい)。そこで、林さんがこんな質問を──。

《林:「眞子さんのことどう思いますか。コメントください」とか、ああいう取材の電話は面倒くさいという感じですか。

佐藤:いや、面白いですよ、からかうと(笑)。アメリカで、野球ですごく打ってる人がいるでしょう。

林:大谷翔平選手ですね。

佐藤:このあいだ、「大谷さんのお嫁さん、どんな人がいいと思いますか」って電話がかかってきたから、「こたつでミカンの皮をむきながらしゃべるようなことを言うほど私はヒマじゃない」って言ったの。「そのとおり書いていいですか」って言うから、「いいですよ。どうぞ」って言ったんだけど、ボツになってましたね(笑)》

病院に行くのは「死ぬ時だけ」と決めている

 佐藤さんは『九十八歳』の中で、『九十歳。何がめでたい』がバカ売れして、にわかに取材が殺到して忙しくなって疲労困憊、ついには昏倒したと明かした。倒れたのは、電話応対している最中だった。

《気がつくと私は廊下へのドアとは反対の方角にぶっ倒れていて、手にしていた筈の電話はどこへすっ飛んだのやら、メガネは吹っ飛び大腿から脇、肩、顔、頭、左側面すべてを強打して動けない。娘一家は二階にいるが、その場から叫んでも聞えるわけがないから声を上げなかった》

 その後、娘の響子さんと孫の桃子さんに支えられ、助けられるのだが……。

《頭の打ちどころが悪かったのかもしれないが、とにかく眠い。(中略)救急車? そんなこと、頭に浮かびもしなかった。「病院」というところへ行くのは、死ぬ時だけ、と決めている私である。

 なぜそんな決心をしたかについては、前回、前々回と記述した駄文を讀んで下さった方にはおわかりになることと思う。讀んでない方は、「どうせまた、佐藤のことだからつまらないことでヘソを曲げたのだろう」と思って下さればいいです》(『九十八歳』「なんでこうなる?」より)

 そこまでの病院不信に陥った裏に一体何があったのか……ぜひ本書をお読みください。

文章は「鼻歌を歌うように書いている」

 佐藤さんが小説を書き始めたのは25歳のこと。つまり今年で76年。2017年に旭日小綬章を受章した際の記者会見で、ずっと書き続けてこられた秘訣をこんなふうに語った。

《秘訣っていうか、それが私にとっての自然なんですよ。鼻歌を歌うようなもんですよ(笑)。昔、大工さんが柱をカンナで削りながら、いわゆる流行歌というか、そういうものを歌いながら削っている。(中略)こんなことを書いちゃいけないんじゃないかとか、これを書いて人の役に立とうとか、人の心を鼓舞しようとか、そんなことじゃないんです》(『九十歳』「こんなことでよろしいのかしら」より)

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