映画『九十歳。何がめでたい』より (C)2024映画『九十歳。何がめでたい』製作委員会
皇居は「いやあ、もう、こりごりですよ、あんなところ」
旭日小綬章受章(2017年)という晴れ舞台でも、佐藤さんの行くところに事件あり。女優・冨士眞奈美との対談で伝達式での裏話を明かした。
《佐藤:天皇陛下への拝謁の時、係の人は九十三歳という私の齢を聞いて、「佐藤さんだけここに座ってください」って、他の人はみんな立ったままなのに、違うところに連れて行かれたの。その人は、この後どこへ行くのか、きっと説明したんだろうけど、私は耳が遠いから聞こえなくて、そのうちにどこかで聞いた声がするな、と思ったら、いつの間にやら天皇陛下が目の前に……。
冨士:もうお式が始まっちゃってたんですね!
佐藤:私は隅っこに追いやられたままで(笑)。(中略)もう一回、聞いてらっしゃいって孫をやったら、集合写真を撮っているところで、「大変だ、早く行ってもらわないと困ります」って役人が怒るんです。それで走ったのよ。
冨士:走ったんですか!? まさかお着物で?
佐藤:留め袖を着て、九十三歳でよれよれだから、特別に椅子に座らされていたのに。慌てて部屋に入ると、ひとつだけ椅子が空いてたの。そこを目がけて走り込んだ途端に、カメラマンがシャッターを切ったんです。いやあ、もう、こりごりですよ、あんなところ(笑)》(『九十歳』佐藤愛子×冨士眞奈美「何てめでたい ひとりの日々」より)
心変わりした?「生きる」とはそういうこと
パンク精神は一朝一夕にはならず。佐藤さんが愛読者だと公言する読売新聞の人気連載「人生案内」に、勝手に答えた『九十歳』の「覚悟のし方」の一編には、パンク精神の裏に波瀾万丈の人生ありと思わずにはおれない。
親子ほど年が違う男性に恋をした20代の看護師。結婚を考えているが、彼女の家族は年の差を心配して反対しているという。どうやって自分の家族と折り合いをつければいいかという相談に答えつつ、佐藤さんはこう明かすのだ。
《私は思う。歳月は覚悟もなし崩しにしてしまう容赦ない力を持っている。私は九十年の人生でまざまざとそれを見てきた。恋も熱病である限りやがては熱は下ることも。それが人間というものであり、「生きる」とはそういうことなのだ》
