女性セブンが取材した「リハビリの名医」
手術の予後はリハビリで変わる
股関節が専門の福島医師は、「手術のリスクを負ってでも、人工関節にしたいかどうか」をひとつの判断基準にすべきと話す。
「手術の適応は、患者さん自身が決めることだと説明しています。たとえば、年に1回の海外旅行を生き甲斐にしているのに、股関節の痛みが原因で断念しているのであれば、手術をする立派な理由になる。
一方で、痛みはあるけれど、普段スーパーに買い物にさえ行ければ満足という人は、リスクをとって手術をする必要はない」
つまり、患者が何を「ゴール」としているかを見極め、併走してくれる医師を見つけることこそが関節痛リハビリの要なのだ。「ゴール」を実現できるかどうかはむしろリハビリにかかっているといっても過言ではない。これは、不慮の事故やけがで外傷を負い、手術を受けた場合も同じだ。弘前大学医学部リハビリテーション医学講座教授で、スポーツ整形外科・膝関節外科医としての経歴を有する津田英一医師が言う。
「患者さんの大半は痛みそのものをとることももちろん、痛みによってできなくなってしまったことに悩んでいます。そのため、『痛みがとれたら何がしたいか』を聞きながら治療を行っています。
特に人工関節は、ひと昔前までは手術後は器具がすり減るからスポーツは避けるべきだといわれていましたが、現在では改良され、予後もよく、しっかりリハビリテーションを行えば、個人差はありますがマラソンを走れるような例もあるほど著しく進歩しています」
ただし手術を受けたからといって、すぐに痛みがとれ、元通りに活動できるようになるわけではない。衰えた筋力を回復させると同時に、ひざや股関節の可動域を広げていく必要がある。
関節の障害やスポーツ傷害、腰痛などの治療を専門とする、あんしんクリニック(兵庫県神戸市)で、ひざのリハビリを担当する理学療法士・和田治さんは手術と術後のリハビリはワンチームで連携をとって行うことが理想と話す。
「手術の予後はリハビリによって大きく左右される。やはりその分野での経験が豊富な理学療法士が担当するのが理想です。なぜ関節が曲がりにくくなっているのか、なぜ痛みを訴えているのか、経験があればその理由を考えて、対処も可能です。
一方でどんなに名医の手術を受けても、各々の医療スタッフの連携が取れていなければ、その手術の成果をうまく生かせないことが少なからずあります。それだけに、医師、看護師、理学療法士がチームとして、しっかりとコミュニケーションが取れているクリニックや病院で手術を受けるのが理想です」
その際、ひとつの目安となるのが「手術件数」だと和田さんは続ける。
「執刀する医師の腕はもちろん、件数が多ければそれだけチームとしてスタッフもまた研さんを積んでいる証拠にもなります」
受診前にホームページでチェックしてみてほしい。 「目に見える基準でいえば、“スポーツ整形外科”を掲げ、スポーツ選手を受け入れている病院は関節痛においても外傷においても高い要求を持つ患者さんに対峙しているゆえ、経験豊富なスタッフが多い傾向にあります」(福島医師)
新しい医療機器や技術の導入も進みつつある。
「いま、リハビリテーションの分野ではロボットがブームです。弘前大学で使っている『HAL』という機種は、患者さんが力を入れようとしている方向を感知して、その動きをアシストするものです。手術直後に痛みや腫れがあったりすると、動かしたいと思っても防御反応が働いて、うまく力を出せないことがあります。そうした場合に、ロボットを使うと痛みをあまり感じることなく、必要な運動ができます。
たとえばひざを伸ばそうとすると大腿四頭筋が収縮しますが、その反応をいち早く拾って、ロボットが伸ばすべき方向に力を加え、ひざが自然と伸びていく。
ほかにも、筋肉や腱の炎症を圧力波で緩和する体外衝撃波治療など、次々に新しい方法が開発されています」(津田医師)
老化だからとあきらめてしまっては痛みは増す一方。信頼できる医師や理学療法士を見つけ、痛みのない老後に一歩踏み出そう。
(了。前編を読む)
※女性セブン2024年6月20日号