断筆宣言をしていた佐藤愛子さんを草笛光子が演じた(c)2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 (c)佐藤愛子/小学館
愛子先生の怒りのパワーが引き留めてくれる
脚本を書く中で気づきを得ることもあった。
「なぜ、怒ることが人を元気にするのか。エッセイからは世の中に反応する大切さが読み取れて、この映画で何を伝えるべきかというメッセージにも重なりました。“いまさら自分が何を言おうとこの社会は変わらないから、もういいや”と、言うことさえ面倒になって諦めている大人は多いと思います。反応するには根気も気力も要りますからね。
でも社会のちょっとしたことに反応したり怒ったりすることが、活力になる。疲れない生き方をしようとする私たちを“いやいや、違うんだよ”と愛子先生の怒りのパワーが引き留めてくれるんです」
大島さんの胸を打った愛子のシーンがある。
「また筆をとった愛子先生が“行き場を失った怒りや九十歳のヤケクソ”を綴って吉川から感想を聞き、電話を切って大きく伸びをするシーンです。
光が差しこむ部屋でわぁーっと両手を広げる草笛さんの表情は晴れ晴れとして、“浅い感想だこと”と言いながらも何かが始まったちょっとした希望や作家としての充実感が滲んで、生きる力がみなぎってくるのが伝わってくるんです。
世の中に反応することを投げてしまった大人が“よいしょ”と踏ん張れる力に、この映画もなれたらいいなと思います」
「草笛光子 生誕九十年 記念映画」と銘打たれた本作。佐藤さんが90歳の日常をリアルに綴ったエッセイを御年90歳の草笛さんが演じたことも奇跡で、おふたりの燃え滾る活力にも元気をもらえるのだ。