ライフ

体操・宮田選手の五輪辞退に「当然だ!」の声があふれる気持ち悪さ

世界体操・種目別 女子平均台決勝の演技

世界体操・種目別女子平均台決勝の演技(時事通信フォト)

 誰もが簡単に発信できる時代、には負の側面もある。コラムニストの石原壮一郎氏が考察した。

 * * *
 日本体操協会の偉い人は、きっと体操経験者が多いんですよね。みなさんバランス感覚が秀でてらっしゃるのかと思ったら、そうでもないようです。パリ五輪の体操女子で代表に決まっていた宮田笙子選手が、喫煙と飲酒を理由に“辞退”に追い込まれました。

 19歳の飲酒や喫煙が、やっとつかんだ五輪行きの切符を取り上げるにほどの重罪だったかどうかは、いろんな考え方があるでしょう。「厳重注意」という選択肢もあったかもしれません。しかし日本体操協会は、わりとあっさり「五輪に出場させない」と判断しました。

 あくまで「本人が辞退した」という形にしたところや、知る限り協会の幹部や役員は誰も処分されていないあたりは、持ち前のバランス感覚の成せる業とお見受けいたします。きっと協会の偉い人たちは、20歳になるまで飲酒も喫煙もしなかった清廉潔白な人たちばかりなんでしょう。そして、宮田選手を迷いなく非難している匿名の人たちも。

 この処分に対しては、スポーツ関係者やタレントや政治家など、多くの著名人から疑問の声が上がりました。陸上で3大会連続で五輪に出場した為末大氏は、Xに「問題だったとは思いますが、代表権を奪うほどではないと思います。どうか冷静な判断をお願いします」と投稿。タレントの高知東生氏も、Xに「19歳の飲酒喫煙で、大人達がこんな一斉攻撃するのやめようぜ。(中略)人一倍頑張ってきた若者の少しばかりの失敗を、大袈裟に騒ぐことが正義なのか?」と強く異を唱えました。

 異論反論があるのは前提として、こういう意見が出てくるのは至極もっともです。ただ、「やりすぎだ」という声をはるかにしのぐ勢いで、ネット上は「法律や規則を破ったんだから辞退は当然だ!」という「正しいことを言う人」の声で埋め尽くされました。自分の「正しさ」をより補強したいのか、「ほかにもこんなことがあったらしい」と根拠のない推測をくっつけて、「だから当然だ!」と言っている人も多くお見受けしました。

「正しい意見」を主張している限り「正しい側」にいられる

 3000歩ぐらい譲って、今回の処分が「やむを得ないこと」だったとしても、ネット上に圧倒的な比率で「当然だ!」の声があふれる光景には、得も言われぬ気持ち悪さと、一種の怖さを覚えずにはいられません。ひとつひとつの書き込みは、それなりに「ごもっとも」であり、ひとりひとりは義憤にかられて書いてらっしゃるんでしょうけど。

 どこにどう気持ち悪さを感じてしまうのか、目を閉じて考えてみました。ひとつは、多くの人が競い合って「正しい意見」を主張しているところでしょうか。「お酒とタバコは二十歳になってから」というのは、いちおう常識だし、法律でも定められています。そこを論拠に責め立ている分には、自分の正当性を疑う必要はありません。

 ネット上では、処分の重さの「妥当性」を疑問視しただけでも、「法律に違反したヤツの肩を持つのか!」「それを許したら世の中の秩序が崩れる!」という批判の矢が飛んできそうです。結果として、ますます「正しい意見」ばかりがあふれることになり、その範囲内で「場所が」とか「立場が」などとちょっと工夫を凝らして書いていれば、多数派に属している安心感を覚えつつ、自分なりのオリジナリティを発揮した気にもなれます。

関連記事

トピックス

生成AIを用いた佳子さまの動画が拡散されている(時事通信フォト)
「佳子さまの水着姿」「佳子さまダンス」…拡散する生成AI“ディープフェイク”に宮内庁は「必要に応じて警察庁を始めとする関係省庁等と対応を行う」
NEWSポストセブン
麻辣湯を中心とした中国発の飲食チェーン『楊國福』で撮影された動画が物議を醸している(HP/Instagramより)
〈まさかスープに入れてないよね、、、〉人気の麻辣湯店『楊國福』で「厨房の床で牛骨叩き割り」動画が拡散、店舗オーナーが語った実情「当日、料理長がいなくて」
NEWSポストセブン
保護者を裏切った森山勇二容疑者
盗撮逮捕教師“リーダー格”森山勇二容疑者在籍の小学校は名古屋市内で有数の「性教育推進校」だった 外部の団体に委託して『思春期セミナー』を開催
週刊ポスト
まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《ブログが主な収入源…》女優・遠野なぎこ、レギュラー番組“全滅”で悩んでいた「金銭苦」、1週間前に公表した「診断結果」「薬の処方」
NEWSポストセブン
新宿・歌舞伎町で若者が集う「トー横」
虐待死の事例に「自死」追加で見えてきた“こどもの苛烈な環境” トー横の少女が経験した「父親からの虐待」
NEWSポストセブン
生徒のスマホ使用を注意しても……(写真提供/イメージマート)
《教員の性犯罪事件続発》過去に教員による盗撮事件あった高校で「教員への態度が明らかに変わった」 スマホ使用の注意に生徒から「先生、盗撮しないで」
NEWSポストセブン
京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”とは(左/YouTubeより、右/時事通信フォト)
《芸舞妓を自宅前までつきまとって動画を回して…》京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”「防犯ブザーを携帯する人も」複数の被害報告
NEWSポストセブン
インフルエンサーのアニー・ナイト(Instagramより)
海外の20代女性インフルエンサー「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画で8600万円ゲット…ついに夢のマイホームを購入
NEWSポストセブン
ホストクラブや風俗店、飲食店のネオン看板がひしめく新宿歌舞伎町(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」のもとにやって来た相談者は「女風」のセラピスト》3か月でホストを諦めた男性に声を掛けた「紫色の靴を履いた男」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 万引き逮捕の350勝投手が独占懺悔告白ほか
「週刊ポスト」本日発売! 万引き逮捕の350勝投手が独占懺悔告白ほか
NEWSポストセブン