ライフ

兄弟ユニット作家“大森兄弟”インタビュー「お互いの文章が違うという認識自体がなく、価値観を共有しているから書き続けられる」

“大森兄弟”が新作について語る(撮影/国府田利光)

“大森兄弟”が新作について語る(撮影/国府田利光)

 2009年に『犬はいつも足元にいて』(文藝賞受賞作)でデビューし、いきなり芥川賞候補となるなど、異色のユニット作家として話題の大森兄弟。待望の最新刊はかの物語の雄ともいうべき桃太郎の後日譚、その名も『めでたし、めでたし』だ。

 それこそ物語はめでたし、めでたしの手前、猿や犬や雉を連れ、鬼ヶ島に渡った主人公の、まさに血で血を洗う征伐の現場から始まる。が、〈やあやあ我こそは日本一の快男児桃次郎〉と宣う彼は桃太郎ならぬ桃次郎であり、名刀鬼切丸を擁する彼が総大将〈温羅〉の首を一閃、その飛んだ首が己の骸を見下ろし、〈ならばいまそれを見る此方はいったい何者か〉と呟く辺りから、単なる昔話を超えた本作の本領が発揮されてゆく。

 しかもこの桃次郎、持ち帰った宝物の持ち主を募りながら全く返す気配がなく、配下の猿達も首を捻るほど。〈御君はひどくお疲れなのかもしれぬ、きっとそうだ〉と理由を捏造せずにはいられないほど、最近の御君は様子がおかしいのである。

 今でも週に1度は会うという現代のグリム兄弟が、共作を始めたのは10代の頃。

兄「最初は弟が書いた小説を見せてくれて、いいなあと思いながらも、ここは直した方がいいとか口出しもして。自分でも書いてみたのは、弟が高校生で僕が大学生の時でした」

弟「その兄が書いたものを僕もいいと思うんですよね。でもやっぱり口出しもして、添削したり続きを書いたり、それが今に繋がりました。

 僕自身は遠藤周作さんの『白い人・黄色い人』を読んだ時に、こういう面白さがあるのかと初めて思って。書いたら最初に見せるのは当然兄で、社会に出ても交換日記的なやり取りを続けるうちに、これって他の人が読んでも面白いかもと、投稿を始めた気がします」

 共作の仕方も片方が構想、片方が執筆といった分担はなく、作品毎に違うという。

兄「今回で言えば書く前に半年くらいひたすら喋って、大枠が決まった後にお互い好きな場面を試し書き的にどんどん書いていった」

弟「元々書いては渡すことを繰り返すうちに、どこを誰が書いたか忘れるくらい、お互いの文章が違うという認識自体がないんです」

 確かにそうした繋ぎ目を一切感じさせない本作は、心地いいリズムに身を任せ、ぐんぐん読み進むうちにもいつか必ず終わりが訪れる、物語そのものの宿命に抗うような皮肉な物語でもある。

 吉備津に戻り、宝の返還という重大事を前にした桃次郎は、持ち帰った温羅の首をなぜか片時も放そうとせず、返還希望者の詮議にもまるで身が入らない。

 自慢の妻の尻を京の絵師に描かせ、挙句駆け落ちされた〈尻取の翁〉は因縁の屏風を、鉞担いだ亭主とは相撲が縁で結ばれたという〈熊娘〉は形見の陣羽織を返してほしいと訴えるが、行列は港まで延び、野次馬も含む有象無象の整理を従順な犬が、御白州の補助役は賢い猿が務めていた。

 さらに雉は桃次郎の命で島に通い、鬼の残党と闘うが、その苦労も〈三歩歩くと〉忘れてしまう。事情を知るのは傷ついた雉を毎日湯に入れ、介抱する下女の〈佳代〉だけで、彼女との切ない恋の行方も見物だ。

関連記事

トピックス

大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《ドッグフードビジネスを展開していた》大谷翔平のファミリー財団に“協力するはずだった人物”…真美子さんとも仲良く観戦の過去、現在は“動向がわからない”
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
悠仁さま(2025年11月日、写真/JMPA)
《初めての離島でのご公務》悠仁さま、デフリンピック観戦で紀子さまと伊豆大島へ 「大丈夫!勝つ!」とオリエンテーリングの選手を手話で応援 
女性セブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(読者提供)
《足立暴走男の母親が涙の謝罪》「医師から運転を止められていた」母が語った“事件の背景\\\"とは
NEWSポストセブン
大谷翔平が次のWBC出場へ 真美子さんの帰国は実現するのか(左・時事通信フォト)
《大谷翔平選手交えたLINEグループでやりとりも》真美子さん、産後対面できていないラガーマン兄は九州に…日本帰国のタイミングは
NEWSポストセブン
高市早苗首相(時事通信フォト)
《日中外交で露呈》安倍元首相にあって高市首相になかったもの…親中派不在で盛り上がる自民党内「支持率はもっと上がる」
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(現場写真/読者提供)
【“分厚い黒ジャケット男” の映像入手】「AED持ってきて!」2人死亡・足立暴走男が犯行直前に見せた“奇妙な”行動
NEWSポストセブン
高市早苗首相の「台湾有事」発言以降、日中関係の悪化が止まらない(時事通信フォト)
「現地の中国人たちは冷めて見ている人がほとんど」日中関係に緊張高まるも…日本人駐在員が明かしたリアルな反応
NEWSポストセブン
10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン