ライフ

【書評】『坂本龍馬の映画史』 時代を反映し変化してきた「龍馬像」の変遷 主だった龍馬映画を取り上げ、一本一本丁寧に論じる

『坂本龍馬の映画史』/谷川建司・著

『坂本龍馬の映画史』/谷川建司・著

【書評】『坂本龍馬の映画史』/谷川建司・著/筑摩書房/2200円
【評者】川本三郎(評論家)

 坂本龍馬を描いた映像作品(映画、テレビドラマ)がこんなに数多いとは。そのことに驚く。戦前から現在まで百本を超える。映画史研究家であり、時代劇好きで『戦後「忠臣蔵」映画の全貌』や、剣豪スターの評伝『近衛十四郎十番勝負』の著者がこれに興味を持ち、一冊の本にまとめた。

 主だった龍馬映画を取り上げ、一本一本丁寧にその作品を論じる。何よりも時代によって描かれる龍馬のイメージがどう変わってゆくか、龍馬像の変遷を辿っているところに面白さがある。

 明治維新後、龍馬が知られるようになるのは明治十六年に刊行された土佐の新聞記者、坂崎紫瀾による伝記『汗血千里駒』によるという。折りから土佐の板垣退助や後藤象二郎らが新政府から下野し自由民権運動を戦ったことから、龍馬が自由民権運動の祖として語られるようになった。

 さらに明治日本が欧米列強と競って近代国家へと成長してゆく過程で、龍馬は勝海舟らと共に日本海軍創設の夢を見た先駆者と語られるようになった。そして大正、昭和と映画が盛んになるにつれ、次々に龍馬映画が作られるようになった。阪東妻三郎や月形龍之介、さらには榎本健一(エノケン)らが龍馬を演じた。

 ただ当時はまだ龍馬を主役とする作り方はされていなかった。龍馬が現代のように人気が出て、幕末に生きた英雄と語られるようになったのは、一九六〇年代に司馬遼太郎の小説『竜馬がゆく』が書かれてからだという。

 薩長同盟の下地を作り明治維新に力があった英雄として、また既成の考えにとらわれない自由人としての龍馬が大人気となり、この影響下に次々に龍馬映画が作られるようになった。

 龍馬が土佐弁を喋る地方出身者と描かれたのも高度成長期の若い世代に支持された一因という。さらに新左翼解体期には黒木和雄監督の『竜馬暗殺』のように内ゲバの犠牲者として描かれた。龍馬映画はつねに時代を反映したという指摘が重要な核になっている。

※週刊ポスト2024年11月22日号

関連記事

トピックス

まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト
生徒のスマホ使用を注意しても……(写真提供/イメージマート)
《教員の性犯罪事件続発》過去に教員による盗撮事件あった高校で「教員への態度が明らかに変わった」 スマホ使用の注意に生徒から「先生、盗撮しないで」
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《ロマンス詐欺だけじゃない》減らない“セレブ詐欺”、ターゲットは独り身の年配男性 セレブ女性と会って“いい思い”をして5万円もらえるが…性的欲求を利用した驚くべき手口 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《ブログが主な収入源…》女優・遠野なぎこ、レギュラー番組“全滅”で悩んでいた「金銭苦」、1週間前に公表した「診断結果」「薬の処方」
NEWSポストセブン
京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”とは(左/YouTubeより、右/時事通信フォト)
《芸舞妓を自宅前までつきまとって動画を回して…》京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”「防犯ブザーを携帯する人も」複数の被害報告
NEWSポストセブン
由莉は愛子さまの自然体の笑顔を引き出していた(2021年11月、東京・千代田区/宮内庁提供)
愛子さま、愛犬「由莉」との別れ 7才から連れ添った“妹のような存在は登校困難時の良きサポート役、セラピー犬として小児病棟でも活動
女性セブン
インフルエンサーのアニー・ナイト(Instagramより)
海外の20代女性インフルエンサー「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画で8600万円ゲット…ついに夢のマイホームを購入
NEWSポストセブン
ホストクラブや風俗店、飲食店のネオン看板がひしめく新宿歌舞伎町(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」のもとにやって来た相談者は「女風」のセラピスト》3か月でホストを諦めた男性に声を掛けた「紫色の靴を履いた男」
NEWSポストセブン
『帰れマンデー presents 全国大衆食堂グランプリ 豪華2時間SP』が月曜ではなく日曜に放送される(番組公式HPより)
番組表に異変?『帰れマンデー』『どうなの会』『バス旅』…曜日をまたいで“越境放送”が相次ぐ背景 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン