ライフ

【逆説の日本史】「木造文化の国・日本」が率先して進めるべき「トランジスタ原発」構想

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』

 ウソと誤解に満ちた「通説」を正す、作家の井沢元彦氏による週刊ポスト連載『逆説の日本史』。今回は「新年特別編 後編」をお届けする(第1441回)。

 * * *
 この特別編については前号掲載の「前編」を先にお読みいただきたいのだが、見逃してしまったという読者もいるかもしれない。そこで内容を要約すれば、「日本は今後数十年のあいだに、中国発の原発事故のとばっちりを受けるリスクがある」ということだ。なぜなら、「東京から中国・上海まで境無しの空域」だからである。これはもちろん、江戸時代の経世家であった林子平が著書『海國兵談』において日本の海防の危機を訴えた有名な言葉「江戸の日本橋より唐・阿蘭陀まで境なしの水路なり」をもじったものだが、私はこの言葉は日本人がきわめて陥りやすい歴史的弱点を示したものとして尊重している。

 日本は島国であり、独自の文化を育み政治や外交でも独自路線を取ることが可能だった。厄介な国でもある超大国の中国と地続きの朝鮮半島の国家とくらべてみれば、よくわかるだろう。しかし、そうであるがゆえに日本人は民族全体の方向性とか重要な国家方針を定める際に、往々にして世界には日本以外の国、つまり外国があるということを忘れてしまう。

 前編で述べたように、日本史上有数の「賢者」とも言える徳川家康ですら、日本国内で軍縮し武器の改良を停止すれば、恒久平和が維持できると考えていた。しかし、残念ながら日本は外国と海でつながっている。海を自由に航行できる強力な軍艦が展開できる時代になれば、日本は未曾有の国家危機に晒される。外国は日本が鎖国しているあいだにもさんざん戦争し、武器は改良され続けてきた。

 それに対して、戦国時代以来まったく改良されていない武器で日本を守ることはできない。その危機を警告したのが「江戸の日本橋より唐・阿蘭陀まで境なしの水路なり」なのである。「敵はどこからでもやってくる(=長崎など拠点だけを防衛しても意味が無い)」ということで、実際ペリーの黒船は江戸湾に直接侵入したし、他の列強も「境なしの水路」から攻めてきた。

 現在の日本では、与党から野党までほとんどの政党が「代替エネルギーへの転換」を主張している。原子力発電は巨大地震が頻繁に起こる日本ではリスクが高いので、整理縮小廃止の方向に持っていくということである。たしかに日本は世界有数の地震国で、実際に東京電力福島第一原子力発電所で甚大な事故が起こった。今後も起こり得るリスクを考えれば、原発の整理縮小廃止といった方針は完全に正しく、異論の余地などまったく無いように思える。

 しかし、それこそ歴史から見れば日本人がハマりやすい落とし穴であり、私の意見はまったく逆で、むしろ日本はいま以上に原発開発に国力を注ぐべきだということだ。

 なぜ、そうなのか? それは、日本以外にも外国というものがあり、とくに日本の隣りには中国というきわめて厄介な超大国があって「東京から中国・上海まで境無しの空域」だからだ。これも前編で述べたように、彼の国の人口は少なく見積もっても日本の十倍もあり、しかも一人っ子政策という超愚策を実施したために日本より早く高齢化大国となる。

 老人たちをサポートするためにも、国力全体を伸長させるためにも必要なのは電力だが、その厖大な需要は代替エネルギーへの変換などでは到底賄い切れるものでは無く、かといって中国がこれ以上火力発電や水力発電を進めれば、地球環境の大きな破壊につながる。つまるところ、原子力発電しかないのだ。

関連記事

トピックス

グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
民放ドラマ初主演の俳優・磯村勇斗
《ムッチ先輩から1年》磯村勇斗が32歳の今「民放ドラマ初主演」の理由 “特撮ヒーロー出身のイケメン俳優”から脱却も
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン