ビジネス
阪神・淡路大震災から30年

ジュンク堂書店創業者が語る「被災地に本屋は必要だった」 震災から1か月経たずに営業再開「リュックを背負ったたくさんの人たちが列を作っていた」【阪神・淡路大震災から30年】

2025.1.5/ジュンク堂三宮駅前店。阪神・淡路大震災を機に書店の使命に気づいたと語る工藤恭孝さん。震災後、ジュンク堂書店は地方出店を積極的に進めた

2025.1.5/ジュンク堂三宮駅前店。阪神・淡路大震災を機に書店の使命に気づいたと語る工藤恭孝さん。震災後、ジュンク堂書店は地方出店を積極的に進めた(撮影/太田真三)

 阪神・淡路大震災から30年が経った。多くの犠牲者を出し、自宅も崩壊、食料品にも事欠く状況で「本」、そして「書店」はどんな役割を果たすのか。著書『復興の書店』があるノンフィクションライターの稲泉連氏が、被災地の書店の物語を綴る。

被災地に本屋は「必要」なのか?

 ジュンク堂書店の創業者である工藤恭孝さんにとって、阪神・淡路大震災での経験は、書店経営者としての原点であり続けてきた。

 当時のジュンク堂書店は三宮店、サンパル店、芦屋店など、神戸市内に6店舗を展開していた。地震のあった30年前の1月17日、工藤さんは夜明けとともにバイクで三宮店に向かったが、同店はビルそのものが傾いて中には入れなかった。一方で「この店ならなんとか再開できるかもしれない」と判断したのが、JR三ノ宮駅東口近くにあったサンパル店だった。

「その時の私は『従業員の雇用を守らなければならない』とただ考えただけでした。お客様のため、とか、地域や出版業界のためという気持ちを、持っていたわけではなかったんですよ」

 工藤さんは翌日からビル管理会社と交渉。閉店している店の従業員を避難所から集め、全壊した店の再開準備を始めた。だが、そのなかで胸に芽生えたのは、「店を開けて大丈夫だろうか」という気持ちだった、と彼は振り返る。

 サンパル店のある神戸市中央区の市街地は、地震によって大きな被害を受けている中心部だ。再開に向けて店の復旧を進めるうちに、「こんな時、こんな場所に本屋を再開しても、人が来るわけなどない……」という思いが胸に募った。

 ところが、震災から1か月も経っていない2月3日の朝のことだ。サンパル店を実際にオープンすると、工藤さんをはじめとしたジュンク堂書店のスタッフは思わぬ光景を目にした。

「リュックサックを背負ったたくさんの人たちが列を作り、開店と同時にお店にどっと入ってきたんです」

 避難所から来たであろう人も多く、コミックや地図、一般書が満遍なく売れた。電車もまだ走っておらず、中には1時間、2時間と歩いて店に来た人もいるはずだった。そして、何より工藤さんの印象に残っているのは、そんなお客たちが口々に「ありがとう」と店員に言葉をかけていたことだ。被災地での店舗の再開に対して、お礼を言われたのである。

「その様子を僕は床に張り付いた本の表紙をモップで拭きながら見ていました」と工藤さんは今もしみじみと話す。

「こう思いましたよね。正直、それまでは非常時に本屋なんて必要ないと思っていたけれど、そうじゃなかったんだ、って」

関連キーワード

関連記事

トピックス

小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン