細かい選考手順は初めて知りました

「私も実際に女性編集者と合宿しながら作品を磨いた経験があって、ああいう一つの作品を間に挟んだ昂揚感や一体感ってちょっと他にないんですよ。

 そうやって作家と編集者はどこまでも走って行ける一方、一定の距離感は死守しないと危ないのも事実。その際々の線上を千紘達は走っていくわけで、そこを間違えずにいてくれた編集者達に私としては感謝する一方、作品にはもっと危うくて他人様に後ろ指さされるような関係を書きたいと思ってしまうんです」

 他にもカインと同じ軽井沢在住の〈馳川周〉やエンタメ界の大御所〈南方権三〉など、あの作家を思わせる面々の至言や裏話が随所に織り込まれ、業界小説としても全く飽きさせない。

「下戸の私が他の作家の方と食事をした際に『運転手』を務めることなど本当の話も入っています。直木賞については私もここまで細かい選考の手順は初めて知ったので、えっ、こんなにフェアだったのって驚きましたね。21年前の自分は別に下駄を履かされたわけじゃないんだと、今になってホッとしたというか(笑)。

 ただ、本が売れない時代に作家として生き残るのは容易ではないし、欲しい物は欲しいと言えるカインを私は愛おしく思う。しかもそうした仕事や自己実現に関する屈託は誰もが共通に抱えているはずで、本書も作家や編集者に限らないお仕事小説として読んでいただけると思います」

 なぜ作家はそうまでして書き、なぜ人は働くのか。本書はそんな解なき問いを巡る痛みと再生の物語でもある。

【プロフィール】
村山由佳(むらやま・ゆか)/1964年東京都生まれ。立教大学文学部卒。1993年『天使の卵 エンジェルス・エッグ』で第6回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2003年『星々の舟』で第129回直木賞、2009年『ダブル・ファンタジー』で第4回中央公論文芸賞と第16回島清恋愛文学賞と第22回柴田錬三郎賞、2021年『風よ あらしよ』で第55回吉川英治文学賞受賞。その他『おいしいコーヒーのいれ方』シリーズや『放蕩記』『二人キリ』など話題作や映像化作品多数。軽井沢在住。156cm、A型。

構成/橋本紀子 

※週刊ポスト2025年2月7日号

関連記事

トピックス

ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン