ライフ

島本理生さん、最新長篇『天使は見えないから、描かない』インタビュー「ちょっと浮世離れした主人公が恋愛に溺れていく物語にはしたくなかった」

『天使は見えないから、描かない』/新潮社/1870円

『天使は見えないから、描かない』/新潮社/1870円

【著者インタビュー】島本理生さん/『天使は見えないから、描かない』/新潮社/1870円

【本の内容】
《ここに来てしまうと、深夜も明け方も、もう分からない。/白髪交じりの短髪と、青白く太い首筋と、闇にそこだけ強く光る瞳とが、シーツの波間を浮き上がっては沈んだ》──。「ここ」とは、18歳年上の「遼一さん」の家。33歳の女性弁護士・永遠子は結婚3年目の夫・晴彦がいながら、実の叔父・遼一と逢瀬を重ねていた。うまくやっているはずだった夫からある日、《「俺、子供ができたんだ」》と告げられる。あっさりと離婚。そして若い恋人とも付き合うが、惹かれるのはやっぱり遼一で──果たして二人の選ぶ未来は。

私自身もこんな展開になるとは思っていませんでした

 恋愛小説の名手が新たな長篇で描くのは、33歳の女性弁護士と18歳年上の叔父との恋である。

「10代のころから、年齢の離れた男女の恋愛映画や小説が好きで、自分でも書きたいと思ってきました。そのころ出てきたプロットのひとつなんです。当時書いていた小説の主人公は自分と同じ10代で、『これはどちらかと言えば性虐待ではないだろうか』と迷うところもあって。加害と愛の線引きができなくて、いったんお蔵入りにしてしまったんです」(島本理生さん、以下「」内同)

 年齢を重ね、小説家としても経験を積んで、今なら書けるのではないかと思ったのだという。

「ひとりの大人の女性と大人の男性として、社会的には認められないものであっても、そういう関係に踏み込んでいく2人を書けるんじゃないかと思いました」

 長篇で書くのは難しいかもしれないと思うテーマを、島本さんは短篇で挑戦することが多いそうだ。

『天使は見えないから、描かない』の冒頭の「骨までばらばら」も、はじめは独立した短篇として書かれたものだった。

「実はコロナ禍の時に心身の調子を崩しまして。小説を書けないぐらい悪かったんです。『骨までばらばら』を思いついたのは短篇から少しずつ再開しようとしている時期でした。自分の不調や葛藤があって、まだ先が見えない感じで終わったことで、逆にもう少し突き詰めてみたいと思いました」

 少し時間を置いて、続篇の「さよなら、惰性」を書いたが、つけられるかと思った決着はそこでもつかず、さらに最終章を書くことにした。

「短篇の続きを書いても終わらなくて、この2人の関係はまだ変化すると思うことはそんなにはないので。この先に、自分がまだ書けていないものが眠っているのかもしれないと手探りで進めました」

 最終章のタイトルは「ハッピーエンド」。これ以上ないほどまっすぐで、物語の結末を示すようでもあるが、大半の読者が想像する結末とは違っているかもしれない。

「主人公の永遠子が新しい人生を始めるイメージを抱いていたので、彼女が好きになりそうな男性を登場させたりしてみたんですけど、ぜんぜん好きにならない(笑い)。こんなに遼一と離れられないものかと、作者の私も想像していなかったですね。書いていくうちに主人公の思いがどんどん強くなって、私自身もこんな展開になるとは思っていませんでした」

関連キーワード

関連記事

トピックス

運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏に「自民入りもあり得るか」聞いた
【国民民主・公認取り消しの余波】無所属・山尾志桜里氏 自民党の“後追い公認”めぐる記者の直撃に「アプローチはない。応援に来てほしいくらい」
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
遠野なぎこさん(享年45)、3度の離婚を経て苦悩していた“パートナー探し”…それでも出会った「“ママ”でいられる存在」
NEWSポストセブン
レッドカーペットに登壇した大谷夫妻(時事通信フォト)
《産後“ファッション迷子期”を見事クリア》大谷翔平・真美子さん夫妻のレッドカーペットスタイルを専門家激賞「横顔も後ろ姿も流れるように美しいシルエット」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
NEWSポストセブン