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自動改札機で失われた“駅員の職人芸” 「大阪駅にはタンゴのリズムで改札バサミを空打ちする駅員がいる」《関西私鉄の秘話》

近鉄の2階建て特急電車「ビスタカー」

近鉄の2階建て特急電車「ビスタカー」

「私鉄王国」と呼ばれるほど、阪急、阪神、京阪、南海、近鉄の五大私鉄の存在が大きい関西圏。私鉄各社の歴史は、スピードやサービスなどの競争の連続だったが、その競い合いの中で“日本初”のサービスも誕生した。

 大阪出身の元全国紙新聞記者・松本泉氏が、関西五大私鉄の歴史を綴った『関西人はなぜ「○○電車」というのか─関西鉄道百年史─』(淡交社)より、関西私鉄から生まれた日本初をお届けする。(同書より一部抜粋して再構成)【全5回の第4回。第3回を読む】

 * * *

日本初の二階建て電車(近鉄)

 近鉄といえば二階建て電車「ビスタカー」だ。

 VISTA(ビスタ)はスペイン語で「眺望」を意味する。1958(昭和33)年に近鉄が導入した日本初の2階建て電車だった。

 オレンジ色の車体に濃いブルーのラインが入ったビスタカーは長い間、近鉄のシンボルであり、日本初の2階建て電車は関西人のご自慢でもあった。

 香港の2階建て路面電車や、ロンドンのダブルデッカーにみられるように、“2階建て”はスムーズに大量の乗客を運ぶことを目的に開発された。2階からの眺望は付け足しのようなものだった。

 しかし近鉄のビスタカーは違った。最初から「すばらしい展望」を売りにした“2階建て”だった。

 1950~60年代、大阪‐名古屋間は近鉄と国鉄東海道線、関西線の3つどもえの激闘が繰り広げられた。ビスタカーはその熾烈な戦いの中で誕生した。

 近鉄には決定的な弱点があった。

 3社が合併した後遺症で、大阪線と名古屋線で軌間(レールとレールの間の幅)が違っていた。大阪‐名古屋間の直通運転とはいうものの、途中駅の伊勢中川駅(三重県)で車両を乗り移らなければならなかった。ずっと座ったままで大阪から名古屋まで行けないことが利用客には決定的な不満の種だった。

 その弱点を突くように、国鉄はスピードアップを仕掛けてきた。所要時間が変わらなければ、やはり途中駅での乗り換えなんて面倒にしか思えない。乗客は国鉄にシフトし始めた。

 いったん乗客が動き出すと、その動きは加速し、ほかにも影響が広がっていく。大阪-名古屋間だけではなく、近鉄の独壇場だった伊勢神宮への参拝客も、国鉄はその速さと使いやすさを売りものにして奪い返し始めていた。

「このままでは名阪間はもちろん、伊勢への乗客もごっそりと国鉄に奪われてしまう」

 近鉄の危機感は大きかった。

「国鉄にはない近鉄ならではの魅力をつくれ」と2階建て電車の開発を指示したのは、近鉄の“中興の祖”といわれた社長の佐伯勇だった。佐伯は、戦後の復興から経済発展へと転じる中で、合併を重ねることで生じたひずみを是正し、高度経済成長にふさわしいサービスの拡充に辣腕を振るった。

 佐伯の指示で始まったさまざまな取り組みの中でも、ビスタカーは大当たりだった。

「日本初の二階建て」と「日本一の眺望が楽しめる」のキャッチフレーズは、関西人をはじめ全国の観光客の心を大きく揺さぶったようだ。

 2階建ては近鉄の“専売特許”になった。

 1962(昭和37)年には団体専用電車「あおぞら」にオール2階建て車両がお目見えした。

「あおぞら」は主に修学旅行で使用されたため、関西の小中学生にはなじみ深く、思い出に残る電車だ。

 1960~70年代の大阪の小学生の卒業文集を見ると、「あおぞらに乗って伊勢志摩に修学旅行に行った」という記述であふれている。

 大阪-名古屋間は東海道新幹線の開通で、国鉄が圧倒的な優位に立った。スピード競争では国鉄に勝てなくなった近鉄は、「安くて快適、そしてぜいたくな鉄道の旅」へと舵を切る。ビスタカーはその中核となった。

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