不思議なのは、大阪朝日がこの記事をノーチェックで出してしまったということである。じつはこの後、印刷された新聞を見て驚いた編集幹部が慌てて差し止めたという話がある。しかし時すでに遅し。夕刊はすでに市中に出回っていた。当時の大阪朝日の社会部長は長谷川如是閑であった。

〈長谷川如是閑 はせがわ-にょぜかん 1875-1969
明治-昭和時代のジャーナリスト、評論家。
明治8年11月30日生まれ。大正5年大阪朝日新聞社会部長となり、7年白虹(はっこう)事件で退社。8年大山郁夫らと「我等(われら)」を創刊、一貫して自由主義の立場からファシズム批判活動を展開した。昭和23年文化勲章。昭和44年11月11日死去。93歳。東京出身。東京法学院(現中央大)卒。旧姓は山本。本名は万次郎。著作に「現代国家批判」「ある心の自叙伝」など。
【格言など】外交官と幽霊は微笑をもって敵を威嚇す(「如是閑語」)〉
(『日本人名大辞典』講談社刊)

「如是閑(是れ閑の如し=閑そのもの)」というペンネームは、逆に彼があまりにも多忙であったので息がつけるようにと知人が贈ったものだというが、漢籍にも素養がある如是閑が試し刷りを見ていたらこんなことにはならなかった。

 現在でもそうだが、新聞社では記者が書いた原稿をそのままスルーで出したりはしない。最低でも校正部がチェックするはずである。そればかりでは無く、デスクや編集長も目を通さなければいけないはずで、この点大阪朝日の校正システムに問題があったと言わざるを得ない。「如是閑」では無く「如是忙」だったのかもしれないが、最大の問題は記者がそんな「アブナイ」文言を書いてしまったということで、おそらくこの記事を書いた大西利夫記者は言葉は知っていたが深い意味を知らなかったのであろう。そうでなければ使うはずが無い。

 このあたりが「大正デモクラシー」なのかもしれない。つまり、新しい世代はどうしても明治の前半に教育を受けた人間にくらべて漢籍の素養が劣るということだ。ちなみに、如是閑は経歴にもあるとおり一八七五年(明治8)生まれである。

 この「敵失」に、寺内内閣支持派は快哉を叫んだ。『大阪朝日新聞』は新聞紙法違反に問われた。場合によっては「死刑」つまり永久発行停止もあり得る形で告発されたのである。右翼も朝日の不買運動を展開し、黒龍会の構成員は人力車に乗っていた大阪朝日新聞社長の村山龍平を拉致し、衣服を剥ぎ取ったうえで公園の石灯籠に縛りつけ、「国賊村山龍平」と大書した紙旗を立てた(あるいはそう書いた札を首にかけた)。

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