上方の「反東京」という伝統

 村山龍平とはいかなる人物だったのか。

〈村山龍平 むらやま-りょうへい 1850-1933
明治-昭和時代前期の新聞経営者。
嘉永(かえい)3年4月3日生まれ。大阪で雑貨商をいとなみ、明治12年朝日新聞社の創業に協力、14年から上野理一と共同で経営。21年「東京朝日新聞」も発刊、41年大阪・東京両社を合併、上野と1年交代で社長をつとめた。24年衆議院議員(当選3回)。貴族院議員。昭和8年11月24日死去。84歳。平成27年全国高校野球選手権大会を創設した功績で、特別表彰で日本野球殿堂入り。伊勢(いせ)(三重県)出身。
【格言など】新聞は大小に論なく、一定の主義をもたねばならない(「吾が朝日新聞の目的」)〉
(『日本人名大辞典』講談社刊)

 このとき編集局長として村山の部下であり長谷川の上司であったのが鳥居素川(本名赫雄)で、彼のことは前に朝日新聞の連載小説の執筆者として夏目漱石を招聘し、数々の名作を誕生させた編集者として紹介したことがあるが、記者、ジャーナリストとしても優秀な人物で寺内内閣批判派だった。

 結局、政府が廃刊(永久発行停止)をちらつかせたことで、村山社長、鳥居編集局長、長谷川社会部長ら内閣批判派が次々と退社に追い込まれ、それまで冷や飯を食わされていた政府支持派の西村天囚(本名時彦)が編集責任者となり、論調は一変した。ちなみに、現在もある朝日の看板コラム「天声人語」の名付け親は西村である。

 長谷川如是閑はその後、経歴にもあるとおり同じ「退社組」である大山郁夫と雑誌『我等』を創刊し、政府批判を続けた。鳥居素川は『大正日日新聞』を創刊して政府批判を続けようとしたが、経営に失敗し言論人としての活動を停止せざるを得なかった。ところが、村山龍平はこのあと朝日新聞社長に復帰したのである。

 創業者の利を生かしたのかもしれないが、その後の朝日は東京日日ほどでは無いにせよ、政府というより軍部の意向に沿うようになり、最終的には「満洲は日本の生命線(ゆえに満洲国建国は正義だ)」という国民的合意の形成に最大の貢献をした。何度も述べたことだが、その合意を形成するのに最大の貢献をした「応援歌」は『満洲行進曲』で、これは朝日の現役記者が作詞して朝日が一流の作曲家堀内敬三に作曲を依頼。いわば、朝日がプロデューサーとして曲を誕生させおおいに流行させたものなのである。

 つまり、いつの間にか朝日は東京日日よりも「好戦的」な新聞になってしまったのだが、その分岐点はおわかりだろう、この白虹事件である。村山龍平が全裸で石灯籠に縛りつけられたとき、右翼の「壮士」は村山になんと言ったか? おそらくは「今度だけは命は助けてやる。だが、わかってるな。同じことをやったら命は無いぞ」だろう。

 これ以降、やはり朝日は変わった。じつは、大阪には反中央・反東京という意識が昔からある。徳川家康が大坂(大阪)にあった豊臣家を滅ぼして江戸を本拠にしてからとくに顕著になったが、このことは江戸歌舞伎の「原作」となった大坂発の人形浄瑠璃がことごとく「反江戸」であったことからもわかる(『逆説の日本史 第13巻 近世展開編』参照)。しかも、この「伝統」は比較的最近まであった。

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