ライフ

【与那原恵氏が選ぶ「昭和100年」に読みたい1冊】『かたりあう沖縄近現代史』世代を超えて「沖縄とは何か」を問いつづける

『かたりあう沖縄近現代史─沖縄のこれからを引き継ぐための七つのムヌガタイ』(前田勇樹、古波藏契・編/ボーダーインク/2025年1月刊)

『かたりあう沖縄近現代史─沖縄のこれからを引き継ぐための七つのムヌガタイ』(前田勇樹、古波藏契・編/ボーダーインク/2025年1月刊)

 今年は、昭和元年から数えてちょうど100年の節目。つまり「昭和100年」にあたる。戦争と敗戦、そして奇跡の高度経済成長へと、「昭和」はまさに激動の時代であった。『週刊ポスト』書評欄の選者が推す、節目の年に読みたい1冊、読むべき1冊とは?

 ノンフィクション作家の与那原恵氏が取り上げたのは、『かたりあう沖縄近現代史─沖縄のこれからを引き継ぐための七つのムヌガタイ』(前田勇樹、古波藏契・編/ボーダーインク/2640円 2025年1月刊)だ。

 * * *
 一九二五年を沖縄の立場から見れば、琉球王国が日本に併合されて四十六年しか経っていない。今から四十六年前の七九年といえば、インベーダーゲームのピークの年で、鮮明に記憶する人も多い過去だろう。昭和百年というけれど、沖縄はその四分の一以上、二十七年間が米軍施政下にあった。

 沖縄戦の記憶も生々しい五〇年、朝鮮戦争が勃発。日本は特需景気に沸いたが、米政府は東アジア情勢を警戒し、沖縄を半永久的に支配するとともに恒久的な基地建設を推進する方針を示した。土地の強制接収が相次ぎ、沖縄住民は激しく抵抗。その沈静化を目論んだ米側は経済的向上を企図し、五八年に法定通貨をそれまでのB円(米軍発行の軍票)からドルに切り替え、本土復帰(七二年)まで使用された。沖縄の百年は日本に組み込まれる一方、米国も絡んだ複雑な歴史を刻み、現在もその延長線上にある。

 しかし、沖縄は虐げられた存在としてのみ生きてきたわけではない。〈復帰を境に「日本のなかの沖縄」というそれまでの枠組みが見直され、各分野において「沖縄とは何か」という真剣な問いが追及された〉。なかでも歴史研究においては、八〇~九〇年代が大きなターニングポイントとなり、新たな書き手が続々と登場した。

 彼らは米軍施政時代を生きた世代だ。いわゆる「沖縄学」が琉球王国崩壊を当人、もしくは父母が体験した世代によって創始されたように、複雑な時代状況ゆえに琉球・沖縄を深く見つめていた。

 本書は若手・中堅研究者が〈先輩方〉の研究者らと世代を超えた対話を重ね〈思想的水脈〉を掘り起こす試みである。琉球・沖縄史、民衆史、教育、メディア、経済、女性史など、テーマは多岐にわたり、沖縄近現代をめぐる意義深い議論を展開。未解決の問題、世代間の断絶にも焦点を当てた。

 研究活動とは、会うこともなかった先人から、未来に生まれる世代まで含めた〈チームで取り組む共同作業〉だといい、琉球・沖縄とは何かを問いつづけている。

※週刊ポスト2025年4月18・25日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
国民に「リトル・マリウス」と呼ばれ親しまれてきたマリウス・ボルグ・ホイビー氏(NTB/共同通信イメージズ)
ノルウェー王室の人気者「リトル・マリウス」がレイプ4件を含む32件の罪で衝撃の起訴「壁に刺さったナイフ」「複数の女性の性的画像」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
「タダで行為できます」騒動の金髪美女インフルエンサー(26)が“イギリス9都市をめぐる過激バスツアー”開催「どの都市が私を一番満たしてくれる?」
NEWSポストセブン
ドバイのアパートにて違法薬物所持の疑いで逮捕されたイギリス出身のミア・オブライエン容疑者(23)(寄付サイト『GoFundMe』より)
「性器に電気を流された」「監房に7人、レイプは日常茶飯事」ドバイ“地獄の刑務所”に収監されたイギリス人女性容疑者(23)の過酷な環境《アラビア語の裁判で終身刑》
NEWSポストセブン
Aさんの乳首や指を切断したなどとして逮捕、起訴された
「痛がるのを見るのが好き」恋人の指を切断した被告女性(23)の猟奇的素顔…検察が明かしたスマホ禁止、通帳没収の“心理的支配”
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
【七代目山口組へのカウントダウン】司忍組長、竹内照明若頭が夏休み返上…頻発する「臨時人事異動」 関係者が気を揉む「弘道会独占体制」への懸念
NEWSポストセブン