既婚者がハマるケースも多いという(写真:イメージマート)
マッチングアプリといえば、独身者が恋人やパートナーを求めて使うものというイメージがあるが、実は40代後半から50代のミドル世代の既婚者が利用するケースもある。ひとときの割り切った関係ではなく、のめり込み過ぎた結果、現実を捨てようとする人やトラブルに巻き込まれる人もいるようだ。
精神科医の香山リカ氏がマッチングアプリのメリット・デメリットや利用者の実態を綴った『マッチングアプリ依存症』(内外出版社)より、既婚者がハマるマッチングアプリ事情をお届けする。(同書より一部抜粋して再構成)【全4回の第3回。第2回を読む】
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「マッチングアプリを使うのは20~30代ばかり」と思っていましたが、意外と多いのが40代後半から50代のミドル世代。既婚者もけっこう多いと聞きます。
実際に会ったり食事に行ったりして交際につながる人もいますが、結果的にお金を巻き上げられてしまうという悲しいケースも耳にしました。
私の古くからの知り合いである50代の女性もその1人。すらりと高い身長に整った顔立ちで、40代と言っても通りそうな人でした。既婚者で子育ても終わり、夫とはマンネリ。そんなときに「軽い気持ちでマッチングアプリをはじめてみた」と話してくれました。
「こんなおばさんにも『いいね』してくれる人がいてびっくりした」
すっかりうれしくなった彼女は、やがて1人の「パイロット」と名乗る男性と出会います。その人は海外育ちだそうで、他の男性たちとは違い、最初から「なんてステキな人なんだ」「フリージアのように清楚でもある」などのほめ言葉を浴びせかけてきたそうです。そのうち彼は「今の会社をやめてパイロットのベンチャービジネスを立ち上げたい。あなたと、ビジネスや人生のパートナーとしてやっていきたい」と言い、立ち上げの資金と言われて送金を繰り返してしまいました。
「え、これって何かおかしいかも」と思う頃には、相手はアプリを退会していたそうです。
もちろんこれは詐欺なのですが、自分も既婚者でアプリを使っていた手前、夫はもちろんのこと、アプリの運営会社にも相談できない。「警察に行った方が」と言いましたが、首を横に振るばかりでした。
女性でも男性でも、こういった被害者になった人は少なからずいるようです。恋愛や結婚をチラつかせてお金を奪う、これは「ロマンス詐欺」と呼ばれますが、これと同じ手法がマッチングアプリでもあるのかと思うと、憂鬱な気持ちになります。
冷静に考えてみれば、パイロットがアプリに登録している可能性は高くないはずなのに、現実とは違い「そんなわけないでしょう」と言ってくれる人もおらず、「もしかしたら私もいまの夫と離婚して、この人とすばらしい人生を歩めるかも」と夢を見させられてしまう。それもまた、アプリの閉鎖性が関係しているのかもしれません。
こういった例はSNSなどでも横行しているようですが、いずれにしても「もしかしたら」という幻想につけ込む闇だと思っています。