日本人メジャーリーガーの扉を開けた村上雅則氏(時事通信フォト)
大谷翔平(30)、山本由伸(26)、佐々木朗希(23)、今永昇太(31)、鈴木誠也(30)…世界トップのMLBで日本人選手が活躍を見せつけた『MLB東京シリーズ2025』。プレシーズンゲーム、開幕戦を含めて全6試合に日本中が熱狂したが、記念すべき1戦目、阪神タイガース対カブス戦の始球式に登板したのは日本人初のメジャーリーガー・村上雅則氏(80)だった。今から61年前、日本人にとってアメリカは“夢の地だった”──。そんな時代に海を渡った村上氏が当時を振り返る書籍が出版された。村上氏、著者に刊行の狙いを聞いた。
* * *
2023年のWBC決勝直前のロッカールームで大谷がナインに発した「(メジャーリーガーに)憧れるのをやめましょう」という言葉通り、もはや日本人選手にとってMLBは決して“夢の舞台”ではなくなっている。
だが、その昔、日本人初のメジャーリーガーとして海を渡った村上氏にとって、メジャー、そしてアメリカは「夢の地」でしかなかった。「マッシー村上」こと村上氏のメジャー2年間の挑戦を綴った『マッシー 憧れのマウンド メジャーリーグの扉を開けた日本人』(牧野出版)が好評発売中だ。
著者は『矢沢永吉 RUN & RUN 』『チ・ン・ピ・ラ』『ロックよ、静かに流れよ』『ラヂオの時間』など数々の映画を手掛けたプロデューサー・増田久雄氏。このタイミングで刊行した狙いを聞いた。
「2023年のWBC決勝中継をゴルフ場のロビーで20人近い人たちと見ていました。優勝した直後、私も含め皆が『大谷はすごい、かっこいい』と口々にし、次第に『イチローや松井秀喜がいたから大谷があるんだ』と歴代日本人メジャーリーガーを称える流れになったのですが、“日本人初のメジャーリーガー”として野茂英雄の名前が上がったのです。“野茂が日本人大リーガー第一号”と思っている人も多いのかもしれません。
国内でメジャーリーグ人気が高まっているいま、1995年の野茂のメジャーデビューより30年以上も前にマッシー村上がいたことを知ってもらう絶好の機会かと思い、“彼の物語を書こう”と決めました」(増田氏)
南海ホークス2年目の1964年2月、3ヶ月の野球留学として村上氏は渡米する。坂本九の『上を向いて歩こう』が『SUKIYAKI』というタイトルで全米に流行していた頃だ。同年に日本の海外渡航の自由化が法制化され、初めて観光目的のパスポートが発行されたばかりだった。そんな時代にまだ20歳の村上氏がパイオニアとして海を渡ったのだが、当の村上氏は「“メジャーに挑戦したい”という気持ちなんて最初はなかった」という。村上氏が語る。
「大学進学か、プロ入りかで悩んでいた高校3年生の私が南海ホークスに入団する大きなきっかけになったのは、鶴岡(一人)監督から『入団したらアメリカ留学をさせようと思っている』という一言でした。最初は『メジャーで投げたい』なんて気持ちよりも『アメリカに行きたい』という気持ちしかなかった(笑)。高校時代、西部劇ドラマ『ローハイド』を見るのが1週間の楽しみだった私にとって、アメリカの土を踏める、それが何よりも魅力だったんです」