田淵幸一氏が選ぶ「ベスト9」オーダー(撮影/藤岡雅樹)
目下、好調をキープする阪神タイガースは今季創設90周年。メモリアルイヤーにV奪還を目指すが、優勝こそ縁が無かったものの、今でも語り継がれる黄金のバッテリーが江夏豊氏(77)と田淵幸一氏(78)だ。そこで田淵氏に「オールタイムベストナイン」を選んでもらった。
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ドラフトでは巨人に指名されると思ってたから、阪神のハの字もなかった。生まれも育ちも東京だから関西の阪神の選手は、(江夏)豊と村山さんしか知らなかった。
いつも思うんだけど、巨人に入ってたら潰されたなと。星野(仙一)に言われたもんな。「お前は巨人に行かなくて良かったよ。ミスターの称号なんてもらえないよ」って。阪神に入ったからこそ「ミスタータイガース」の冠をもらえて本当に良かったと思っている。
そんな歴代のベストナインを順番に考えていく。まずファーストで思い出すのは遠井吾郎さん(阪神在籍・1958~1977年。以下同)。毎日酒を飲んで帰ってきて「よくこの人持つな」って。360日は飲んでる。俺もよく連れてってもらって「お前、明日打たなかったらもう連れていかないからな」ってハッパをかけられた。
バッティングは広角に打ち分け、選球眼が良かったし守備だって悪くなかった。ただ太ってるイメージが強い。やっぱり歴代ベストなら(ランディ・)バースを入れないわけにはいかない。でも遠井さんも入れたかった。セカンドは中野(拓夢、2021年~)かな。とにかく守備が抜群に上手い。ショートからコンバートされて本当に良かった。
ショートは(藤田)平(1966~1984年)もいるけど、やっぱり吉田義男さん。俺たちは実際のプレーは知らないけど、“今牛若丸”って言われたぐらいの名手だからね。
サードは三宅(秀史、1953~1967年)さんが浮かぶ。派手じゃないけど堅実な守備だった。キャッチボールの事故で眼にボールが当たっていなかったらもっと活躍しただろう。
でも、総合力なら掛布(雅之)になるか。掛布が阪神に入れたのは俺たちのおかげなんだよ。たまたま千葉にゴルフに行った帰りに、掛布のお父さんの居酒屋に入って掛布のことを聞き、一緒にいたコーチに就任したばかりの安藤統男さんが球団にかけあってドラフト6位で指名したんだから。
そこからが凄かった。1年目のオープン戦でレギュラー陣が所用で欠場して出た試合で全方向に3本ヒットを打ってそこからずっと一軍帯同。こういう鬼の居ぬ間にポジションを獲るっていう勝負強さ、巡り合わせは一流選手に欠かせないこと。ドラフト6位という屈辱もあっただろうし、才能におぼれず、鍛錬を続けた。俺の次に「ミスタータイガース」の称号を貰っただけのことはある。