元夫は同じ団地内にある不倫相手の家で暮らし始めた(写真提供/イメージマート)
家庭裁判所の場合、「養育費の算定表」というものがあり、夫と妻の収入によって金額が算定される。家庭裁判所での調停離婚は費用も安く済むが、一年くらいの時間がかかってしまう。最近では妻側の年収が高い場合もあり、プロの探偵に頼み証拠を掴んでから弁護士に依頼。慰謝料を夫からだけでなく不倫相手の女性にも請求し、高額な養育費を決めてから公正証書を作成、好条件で離婚を勝ち取るケースも多い。
しかし当時の玲子さんに、そんな余裕はない。夫の不倫が原因であっても、家裁で決まった養育費は、当時子ども3人で月額7万円だった。裁判所が公表している養育費の「標準算定方式・算定表」(令和元年版)をみると、日本の平均年収であれば月額7万円は、一般的な金額だということが分かる。一方、「家計調査」(2024年平均、総務省)によれば、消費支出は1世帯当たり1か月平均30万243円とあるように、標準的な金額の養育費では、それまで「普通」だった生活を子供たちに与えるのが難しい。そのため自分の収入を増そうと玲子さんは派遣の仕事を見つけるだけでなく、夜勤の単発バイトも始めた。それでも生活は苦しい。そんな精神的にも肉体的にも経済的にもギリギリの玲子さんに、夫は信じられない行動に出ていた。
「ある日、家裁から通知がきたんです。内容は夫が養育費を7万も払えないから、3万に減額してくれって。もう言葉もなかったです。でも家裁の人から『納得しないと3万だって払ってもらえなくなります』とか言われて。確か30万くらい給料をもらっていたはずなのに。子供1人に1万って、もう呆れて。結局、3万に減額されました」
「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」(厚生労働省)によると、母子世帯のうち養育費を「現在も受給している」のは28.1%。払っているだけマシという声もあるかもしれないが、無責任と誹られても仕方がないやり方だろう。
玲子さんは食べ盛りの息子3人のために、必死で働いた。もう無我夢中だった。そんな母親を気遣い、子供たちも家事を手伝ってくれた。以前のように子どもらしいわがままさえ言うことが少なくなり、我慢している姿が本当につらかったという。
一方で同じ団地の不倫相手の家で暮らし始めた元夫は、クリススマス、お正月、息子たちの誕生日でさえも、お金もプレゼントも何ひとつ贈ってくることがなかったそうだ。それどころか同じ団地に住んでいるのに、たとえばこっそりお菓子のひとつも子供たちへ渡すこともなかった。でも玲子さん夫婦が離婚後、シングルマザーで経済的にも余裕があるようには見えなかった不倫相手の車は、なぜか新車に変わっていた。
さらには狭い団地の世界、翔太くんの母親の家に、玲子さんの夫が一緒に暮らし始めたという格好の噂話は、瞬く間に広がる。事情を察した親しい女性たちは同情してくれたが、あからさまに好奇の眼差しを向けられることも多かったという。