結婚式の写真から想像していた50代の元夫とは大きく違っていた(写真提供/イメージマート)
「息子たちは当時何も言いませんでした。でも、たとえ小学生だって……きっと分かりますよね。たぶん、いじめられていたと思います。しばらくして私たちは引っ越したけど、子供たちには本当に悪いことをしたなって…申し訳なくて。上の息子は最近になって元夫と連絡を取り合っています。最初に声を聞いたと教えてくれた末っ子は会ったりしませんね。息子たちは優しく育ったし、男親だから仕方ないと思っても‥正直複雑かな。私はもちろん養育費のことも話していないから。まさか父親が『養育費を7万から3万に減らしてくれ』って言ったなんて知ったらどうだろうって」
元夫は、その後もおそらく不倫相手と入籍はしていないらしい。玲子さんは、子供たちのために毎日働くことに必死で、再婚など考えたこともなかったという。
顔にでるんですね
取材の最後に携帯の中にあった写真を見せてくれた玲子さん。優しく育ったという息子たちは3人とも長身でイケメンだ。古い写真のなかに見つけた元夫も長身でまるでモデルのようだ。確かにモテそうだし、これまで聞いた話の印象ではきつい顔を想像していたが、優しそうな男性に見える。美男美女の若いカップルの幸せそうな結婚写真からは、未来がこんな結果になろうとは想像もできない。「結婚」という言葉の意味を改めて考えさせられる。
「あ、ちょっと待って、これ、見てください。上の息子が撮ってきたんです」
玲子さんがスマホをスクロールし、違う写真の画面を差し出した。細身でイケメン長男の横に貫禄のある校長先生のような初老男性が写っている。長男の恩師かなと「この方……どなたですか?」と聞くと、笑いながら「これって、実は元夫なんです」
「えーっ!!」と思わずのけぞってしまうほどの衝撃だった。結婚式の写真から、勝手に元夫も50代になった今も、長身だから仲村トオルとか竹野内豊みたいな最近流行りのイケオジになっていると想像していた。ところが2025年の元夫は、逆劇的ビフォーアフター並みの変身を遂げていた。ふさふさでサラサラだった髪も、かなりのイケメンの面影も、どこをどう探しても見当たらない。八頭身のイケメンは、まったくの別人に変わっていた。指名手配犯だったら逃げ切れるかもしれない。
「すごいでしょう、私も驚きましたもん。顔にでるんですね。怖そうなきつい顔になってびっくりです。息子が将来こんなに太って、髪の毛なくなったら嫌だなぁ」そう笑う玲子さんは、若い頃から綺麗だった。そして様々な苦労を重ねた経験から、内側から滲み出るような穏やかな美しい40代へと年齢を重ねている。やはり人の顔は、まさに積み上げてきた生き方を表すのかもしれない。
「不倫は文化」という俳優の言葉に、世の中が大騒ぎになったこともあった。「たまたま好きになった人が結婚していただけ」「知り合うのが遅かった」男と女がいるかぎり、これからもそういう話題は何度でも世間の関心を誘うのだろう。
今回は玲子さんの話を聞かせてもらったが、不倫相手の翔太くんの母親でもある女性は、どう考えていたのだろうか。まだ小学生の翔太くんは、同級生のお父さんがいきなり一緒に暮らし始めたとき、何を思ったのだろう。もちろん当時の玲子さんの子供たちの気持ちを想像すると胸が締め付けられる。大人の勝手に巻き込まれた罪もない二つの家庭の子供たちが一番かわいそうだから。
きっと玲子さんも、元夫がせめて子供たちだけは傷つけないようにと、必死で守ってさえくれれば、怒りも苦しさも悲しさも、ほんの少しだけでも和らいだのかもしれない。玲子さんが見せてくれた昔の写真、そこには子供たちの両隣で思いっきり笑っている元夫婦の笑顔があった。
●取材・文/服部直美(はっとり・なおみ)/香港中文大学で広東語を学んだ後、現地の旅行会社に就職。4年間の香港生活を経て帰国。ブルネイにも在住経験があり、世界の食文化、社会問題、外国人労働者などを取材。著書に『世界のお弁当: 心をつなぐ味レシピ55』ほか。