高田文夫氏が大好きな石倉三郎(イラスト/佐野文二郎)
放送作家、タレント、演芸評論家、そして立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、「サブちゃん」こと石倉三郎について。
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テレビを見ていると昔一緒に仕事をしていたのに名前が出てこないなんてことがよくある。2時間後くらいにポッと名が出てひと安心。だから若い頃のことなど忙しすぎて当人はよく覚えていない。周りにいた人に言われ「そんなこともあったなぁ」と。
私のラジオに古くからの人がたて続けにゲストで出てくれた。社会人になりたて『週刊TVガイド』の記者だった泉麻人。「局まわりでNHKの制作に行くと、いつも高田さんがディレクターの机で一心不乱に台本書いてましたよね。遠目でずっと見てました」だと。『笑っていいとも!』のずっと前、NHKのあの枠では『ひるのプレゼント』を放送していた。月から金まで5本でワンテーマ。私以外にベテランの作家がローテーションで入っていた。
5本書き終わると夜フジテレビへ行って朝まで3番組くらい書くのだ。たしかにあの頃「速い、安い、うまい、高田の台本」と言われていた。明け方ゴールデン街あたりへ行って来ている知り合いと飲み口論し……こんな毎日が10年以上続いた(暗黒の20代)。
大好きな石倉三郎が来てくれた。サブちゃん(通称)は青山でバイトをしている時、あの高倉健に声を掛けられ「役者になりたいんです」と言うと東映の東京撮影所へ連れてってくれた。俗に言う大部屋俳優である。古い映画を見てるとよく健さんにぶっとばされるチンピラで出ている。一本気だから事務所の連中ともいろいろあったのだろう。東映を退社。
その後『上を向いて歩こう』世界の坂本九の所へ。健さんに可愛がられ九さんにもバカはまり。気のつかい方など半端じゃなかったのだろう。「映画界のトップ」と「歌謡界のトップ」、本当のツートップに愛された人たらし日本一(そのくせ喧嘩も滅法強い)。「いま現役で一番強いの誰?」と訊いたら「松本明子の旦那(本宮泰風)」とつぶやいた。
九さんの後、皆様よくご存じの通りレオナルド熊と組んだ“コント・レオナルド”で一世を風び。しかし噂通り熊の品行が悪かった。今でもその名が出ると嫌な顔してひと言もふれない。
私とサブちゃんが出会ったのはサブが九さんに付いてる頃。NHKで『こども面白館』をやっていて、私が「天覧試合」だの「栃若物語」だのの“立体講談”の台本を書いていて、スタッフの慰労を兼ねて箱根旅行へ。宴はサブ仕切りだがいまいち盛りあがらない。そこで私が九さんに落語を一席「火焔太鼓」。先日サブしみじみと「スタッフなのにこれだけ達者な人がいるんだ。芸能界は奥深い」と思ったそうだ。覚えてない。
※週刊ポスト2025年6月6・13日号