ビジネス

【大阪・天満橋 立ち飲み ナガタ】大河ドラマより面白い明治からの物語 仲良し兄弟が営む人情酒場では客も家族の一員

 大阪メトロ谷町線・天満橋駅から徒歩5分。大阪城にほど近い当地で明治元年に創業、角打ち歴は80年余となる『立ち飲みナガタ』。7代目店主の永田博之さん(50歳)は、「7代目という響きで、すでにえらい続いている感じがするでしょ。書面には残っていないのですが、江戸時代から続いています。キリのええところで明治元年の創業ということにしてるんです」と話す。

 店近くを大川が悠々と流れる。水都・大阪では「モノを船で城近くまで運んでいた歴史があり、天満は物流の要所でした。だからこの辺りには、いまも船の修理屋さんから転じた車屋さんと乾物屋さんが多いです」(店主)。江戸~明治期には、天下の台所と呼ばれた卸売市場「天満青物市場」(昭和6年に大阪市中央卸売市場へ集約)もあり、市場街で一杯やる酒店という顔を持つ、息の長い店なのだ。

ひとたび店内に入れば客もみな家族だ

ひとたび店内に入れば客もみな家族だ

 令和の立ち飲みについて店主は、「今は勤務時間も短縮傾向だから、真っ直ぐ家に帰ったら夜の時間を持て余す。だから、うちにワンバウンドしてから帰りはる人が多いのかなと思います。毎日ちょっとずつストレスを吐き出せるし、通い続けても懐がさほど痛まないのが立ち飲みのいいところでしょう」と語った。

 一方、お客らは口をそろえてこう言う。「永田ファミリーに会いたくて来るねん。大河ドラマより面白い家族の物語がここにはある」(70代の常連)

“ドラマ”の主人公は永田家の仲良し三兄弟。長男・博之さんが店主、次男・達也さん(43歳)が酒販部門を支え、三男・貴寛さん(41歳)が母の武子さんと立ち飲みを盛り上げる。

 朗らかで顔役だった先代が急逝し、博之さんが継いだのが33歳のとき。常連たちの支えもあり、突然の代替わりを無事に果たした。「ここの兄弟は、ほんまに仲良く助け合っててな、見てるだけで嬉しくなるねん」と70代の女性客が三兄弟に温かい眼差しを向ける。

「兄弟が育っていくところも知ってるし、結婚も子供ができたのも見てきた。『オシメを替えたのは私』『勉強を見たのは自分』とか、客の多くが何かしら彼らの成長に関わってるねん。客兼ベビーシッターやね」。店主もそれを聞いて、「確かに店で晩ご飯を食べながら育ったから、お客さんに育てられたようなもんですわ」と深くうなずいた。

 ナガタの当主は代々、地元の小中学校のPTA会長や、町内の夏祭りの取り仕切りという大役も務めてきた。町の中心に昔からこの店と家族がいるのだ。

 60代の女性客が「そらあんた、インターネットができる前に、街の情報に一番詳しい人いうたら、酒屋さんやったんや。『サザエさん』に出てくる三河屋さんもそうやろ。逆に言うと、みんながここの家族を見ているわけや。この街に暮らし、店に通ううちに、大きなファミリーの一員になる感じやな」と解説してくれた。

左から長男・博之さん、母・武子さん、三男・貴寛さん

左から長男・博之さん、母・武子さん、三男・貴寛さん

 なじみ客の横顔は多様だ。

「あんた、もっと早く取材に来たらよかったのに」と言うのは、地域の婦人会で活動する60代の女性客。「98歳の常連さんがおったんよ。おもろい人やったで。チーズと豆腐しか食べへん人。竹槍で米兵を突いた言うてたけど、もう亡くなってしもたわ」。まさに歴史の生き証人だ。

 仕事で顔を出したのがきっかけだったという保険業の女性(30代)は「いつの間にか常連になってしまいました。狭さがよくて、雰囲気がゆる~いのがええんです。それと、お店の人がお客さんを平等に扱うてるのがわかるから、それが気持ちええ」とホッとした笑顔を浮かべる。

 着物姿の常連は、落語家の団子家みたらしさん。「永田ファミリーは愛がいっぱい。皆さんが皆さんを好き。ここが大事や。それにこの店は華があるので、地域全体で守ってる。そういう心意気もええねん」と想いが止まらなくなってしまった。

 常連一の酒豪と呼ばれる仕事帰りの女性客は、「タケさん(武子さん)が『ご飯食べたかー?』とパパッと作ってくれる。天満のおふくろの味や。家族みたいに思ってしまうから私も『ただいま』と言いながら店に入ってくるねん」とありがたみを噛み締める。

 その武子さんは、「長いことやってますけど、立ち飲みは人の繋がりがあるわ。座って飲むのもええけど、立ったときに『今日はなんで来たん?』とか、たわいない話が始まるんです。それをカウンターのこっちから見ているのが楽しいですよ」と話した。

話が弾めば、もう1杯、もう1杯とお酒が進む

話が弾めば、もう1杯、もう1杯とお酒が進む

 この日は元気な浪花の女性客が多かったが、男性たちも思い思いに盃を傾けている。

「ここで飲むやつはみんなマイペースや。早いやつ、遅いやつ、逃げ足だけが早いやつ、とかな。他人のペースで飲まんでええねん。それに『奢り、奢られ、領収書』みたいなめんどくさいことなしに、みんな我が身の金でさっぱり飲むねん」(50代)

 隣で先の70代の常連客が、「そうそう。どこで飲んでも酒の味自体は同じやんか。そやから、いつ、どこで、誰と飲むか。その一杯をいちばん旨く飲む方法を知っていくのが大人の酒道や。オレの答えは、ここで飲むっちゅうこっちゃ」と返した。

「ほんまな、ここで飲んでたら『半分お店、半分家族』。自分も家族のドラマに登場させてもらっている気分」と50代の常連も応じる。歴史を共に乗り越えた感慨が酒をいっそう旨くする。

「そんな大層な! 空いた時間に寄ってくれたらええねん」と店主。その声で焼酎ハイボールの缶を皆が掲げた。

「キリッとドライに乾杯。今夜も飲もか~」

「天満のおふくろの味」と焼酎ハイボールの相性は満点

「天満のおふくろの味」と焼酎ハイボールの相性は満点

■立ち飲みナガタ

【住所】大阪府大阪市北区天満4-5-15
【電話】06-6351-1971
【営業時間】17~20時 水土日祝休
焼酎ハイボール350円、ビール大びん500円、ポテトサラダ300円、トリハラミ400円、フィッシュカツ300円

関連記事

トピックス

公選法違反の疑いで刑事告訴され、書類送検された斎藤知事(左:時事通信フォト)と折田楓氏(右:本人SNS)
“公選法違反疑惑”「メルチュ」折田楓氏の名前が行政SNS事業から消えていた  広島市の担当者が明かした“入札のウラ側”《過去には5年連続コンペ落札》
NEWSポストセブン
コンサートでは歌唱当時の衣装、振り付けを再現
南野陽子デビュー40周年記念ツアー初日に密着 当時の衣装と振り付けを再現「初めて曲を聞いた当時の思い出を重ねながら見ていただけると嬉しいです」
週刊ポスト
”薬物密輸”の疑いで逮捕された君島かれん容疑者(本人SNSより)
《28歳ギャルダンサーに“ケタミン密輸”疑い》SNSフォロワー10万人超えの君島かれん容疑者が逮捕 吐露していた“過去の過ち”「ガンジャで捕まりたかったな…」
NEWSポストセブン
中居正広氏の近況は(時事通信フォト)
反論を続ける中居正広氏に“体調不良説” 関係者が「確認事項などで連絡してもなかなか反応が得られない」と明かす
週刊ポスト
スーパー「ライフ」製品が回収の騒動に発展(左は「ライフ」ホームページより、みぎはSNSより)
《全店舗で販売中止》「カビだらけで絶句…」スーパー「ライフ」自社ブランドのレトルトご飯「開封動画」が物議、本社が回答「念のため当該商品の販売を中止し、撤去いたしました」
NEWSポストセブン
「地面師たち」からの獄中手記をスクープ入手
「全てを話せば当然、有罪となっていたでしょう」不起訴になった大物地面師が55億円詐欺「積水ハウス事件」の裏側を告白 浮かび上がった“本当の黒幕”の存在
週刊ポスト
大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《大谷翔平が“帰宅報告”投稿》真美子さん「娘のベビーカーを押して夫の試合観戦」…愛娘を抱いて夫婦を見守る「絶対的な味方」の存在
NEWSポストセブン
「お笑い米軍基地」が挑んだ新作コント「シュウダン・ジケツ」(撮影/西野嘉憲)
沖縄のコント集団「お笑い米軍基地」が戦後80年で世に問うた新作コント「シュウダン・ジケツ」にかける思い 主宰・まーちゃんが語る「戦争にツッコミを入れないと」
NEWSポストセブン
令和最強のグラビア女王・えなこ
令和最強のグラビア女王・えなこ 「表紙掲載」と「次の目標」への思いを語る
NEWSポストセブン
“地中海の楽園”マルタで公務員がコカインを使用していたことが発覚した(右の写真はサンプルです)
公務員のコカイン動画が大炎上…ワーホリ解禁の“地中海の楽園”マルタで蔓延する「ドラッグ地獄」の実態「ハードドラッグも規制がゆるい」
NEWSポストセブン
『週刊ポスト』8月4日発売号で撮り下ろしグラビアに挑戦
渡邊渚さん、撮り下ろしグラビアに挑戦「撮られることにも慣れてきたような気がします」、今後は執筆業に注力「この夏は色んなことを体験して、これから書く文章にも活かしたいです」
週刊ポスト
強制送還のためニノイ・アキノ国際空港に移送された渡辺優樹、小島智信両容疑者を乗せて飛行機の下に向かう車両(2023年撮影、時事通信フォト)
【ルフィの一味は実は反目し合っていた】広域強盗事件の裁判で明かされた「本当の関係」 日本の実行役に報酬を支払わなかったとのエピソードも
NEWSポストセブン