結末が見えたところで同時にタイトルが浮かんだ

 夫の奏多と別れても、義弟の颯斗や義理の両親との関係は続くのも瀬尾作品らしい。

「血のつながっていない人が家に入るのが理想だと考えているわけではないんですけど、親だけが子どもを育てなきゃいけないわけじゃないじゃないですか。親と子だけでいるってやっぱりすごくしんどい時もあって、そこに誰かが入ってくれるとちょっとラクになることがある。そんな関係を小説には書きました」

 週に一度、颯斗が夕食を用意し保育園に迎えに行く。颯斗が手を差し伸べるかたちで3人の時間が始まるが、義姉や姪とのかかわりを彼が大切にしていくことがわかり、美空も颯斗自身について知ろうとする。

 一筋縄ではいかないのが、美空と母との関係だ。美空と同じように、シングルマザーとして娘を育てた母親は、娘を意のままに従わせようとする。母の機嫌を損ねたくない美空だったが、娘が生まれたことで母との関係を改めて考えることになる。

「よく、子どもができたら親のありがたみがわかるって言うじゃないですか。実際、子どもができるまでは私も、母は自分を犠牲にして私を育ててくれたんやなと思ってたんですけど、いざ子どもができてみると、『え? 子どもに恩に着せる要素はひとつもなくない?』って思ったんです。

 もちろん、3歳ぐらいまでの子育ては、ただただしんどい、怒濤の日々なんですけど、それでも『感謝してや』と子どもに言う場面なんて一切思いつかない……、というところからこの小説の母親との関係は始まっています」

 全体の半分ぐらい書いたところで結末が見えたという。

「結末が見えたところで同時にタイトルも浮かびました。美空が探してたもの、求めてるものはこれやな、って。前に私がパニック障害で倒れて、夫が救急病院に車を運転して連れていってくれたことがあったんですけど、娘は、うわーって泣きながら、ほっぺの横にこう指を置いて、『ママ、私見て? 笑ってるでしょ? 私が笑ってたら元気になるんでしょ?』って言ってくれて。あの時、私の大事なものはここにあるわ、って思ったことを思い出しました」

 瀬尾さんのお嬢さんは大人向けに書かれた小説をまだ読んだことがないそうだが、自分をモデルにしたひかりのことをとても気に入って、「自分がいちばん最初に読むママの本になる」と、『ありか』を読むのを楽しみにしているという。

【プロフィール】
瀬尾まいこ(せお・まいこ)/1974年大阪府生まれ。2001年「卵の緒」で坊ちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年作家デビュー。2005年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞、2008年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞、2019年『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞。2020年に刊行された『夜明けのすべて』は映画化され、大きな話題を呼んだ。ほかの著書に『図書館の神様』『強運の持ち主』『優しい音楽』『あと少し、もう少し』『傑作はまだ』『私たちの世代は』など多数ある。

取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2025年6月26日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

中居正広氏の近況は(時事通信フォト)
反論を続ける中居正広氏に“体調不良説” 関係者が「確認事項などで連絡してもなかなか反応が得られない」と明かす
週刊ポスト
「地面師たち」からの獄中手記をスクープ入手
「全てを話せば当然、有罪となっていたでしょう」不起訴になった大物地面師が55億円詐欺「積水ハウス事件」の裏側を告白 浮かび上がった“本当の黒幕”の存在
週刊ポスト
大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《大谷翔平が“帰宅報告”投稿》真美子さん「娘のベビーカーを押して夫の試合観戦」…愛娘を抱いて夫婦を見守る「絶対的な味方」の存在
NEWSポストセブン
「お笑い米軍基地」が挑んだ新作コント「シュウダン・ジケツ」(撮影/西野嘉憲)
沖縄のコント集団「お笑い米軍基地」が戦後80年で世に問うた新作コント「シュウダン・ジケツ」にかける思い 主宰・まーちゃんが語る「戦争にツッコミを入れないと」
NEWSポストセブン
神谷宗幣氏(写真中央)が率いる参政党は参院選で大躍進した。東京選挙区でも塩入清香氏(右)が当選(2025年8月写真撮影:小川裕夫)
《午前8時の”異変”》躍進した「参政党」、選挙中に激しい応酬のあった支持者と反対派はどこへ?参院選後の初登院の様子をレポート
NEWSポストセブン
令和最強のグラビア女王・えなこ
令和最強のグラビア女王・えなこ 「表紙掲載」と「次の目標」への思いを語る
NEWSポストセブン
“地中海の楽園”マルタで公務員がコカインを使用していたことが発覚した(右の写真はサンプルです)
公務員のコカイン動画が大炎上…ワーホリ解禁の“地中海の楽園”マルタで蔓延する「ドラッグ地獄」の実態「ハードドラッグも規制がゆるい」
NEWSポストセブン
『週刊ポスト』8月4日発売号で撮り下ろしグラビアに挑戦
渡邊渚さん、撮り下ろしグラビアに挑戦「撮られることにも慣れてきたような気がします」、今後は執筆業に注力「この夏は色んなことを体験して、これから書く文章にも活かしたいです」
週刊ポスト
強制送還のためニノイ・アキノ国際空港に移送された渡辺優樹、小島智信両容疑者を乗せて飛行機の下に向かう車両(2023年撮影、時事通信フォト)
【ルフィの一味は実は反目し合っていた】広域強盗事件の裁判で明かされた「本当の関係」 日本の実行役に報酬を支払わなかったとのエピソードも
NEWSポストセブン
ブラジルの元バスケットボール選手が殺人未遂の疑いで逮捕された(SNSより、左は削除済み)
《35秒で61回殴打》ブラジル・元プロバスケ選手がエレベーターで恋人女性を絶え間なく殴り続け、顔面変形の大ケガを負わせる【防犯カメラが捉えた一部始終】
NEWSポストセブン
モンゴルを公式訪問された天皇皇后両陛下(2025年7月12日、撮影/横田紋子)
《麗しのロイヤルブルー》雅子さま、ファッションで示した現地への“敬意” 専門家が絶賛「ロイヤルファミリーとしての矜持を感じた」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
三原じゅん子氏に浮上した暴力団関係者との交遊疑惑(写真/共同通信社)
《党内からも退陣要求噴出》窮地の石破首相が恐れる閣僚スキャンダル 三原じゅん子・こども政策担当相に暴力団関係者との“交遊疑惑”発覚
週刊ポスト