「グラディアトル法律事務所」の代表弁護士・若林翔氏
欲望渦巻く新宿・歌舞伎町では、日々、多様な事件が起きている。新宿に拠点を構え、これまでに3000件以上の風俗トラブルを担当してきた「グラディアトル法律事務所」の代表弁護士・若林翔氏は、「店や女性キャストと客との間のトラブルの中でも、『本番』に関するごたごたは多い」と話す。そうしたトラブルについて、歌舞伎町のお膝元にある紀伊國屋書店新宿本店の「新書部門(6月4週)」でランキング第1位を獲得した若林氏の著書『歌舞伎町弁護士』より、一部抜粋、再構成して紹介する。
繰り返し持ち込まれた同じ店、同じ源氏名のデリヘル嬢との本番トラブルの相談に、店ぐるみの「美人局」への疑念が浮かび上がる──。【全3回の第3回。第1回を読む】
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3人目の依頼者は50歳、外資系企業の宅配サービスの配達員。トラブルの内容はまったく同じ、サービスの最中にスルっ。ネットの掲示板を見て、私の事務所に連絡──しかし、今回は異なる点が3つあった。
1つ、依頼者が独身であること。2つ、依頼者は正社員でも契約社員でもなく、業務委託という名目の自営業者であること。性風俗産業絡みのトラブルで、多くの依頼者が「示談」を望むのは、実際に悪いことをしたからというより、家族や会社に知られるとバツが悪いからだと感じることのほうが多い。
今回の一連のケース、ユウと名乗るデリヘル嬢が声高に訴える被害について、私は強い疑念を抱いていた。もっと正直に言えば、徹底的に戦いたいと思っていたが、それは私ではなく依頼者が決めることだ。
以前の2人、企業や官庁の勤め人で家族を持つ依頼者たちは、潔白の証明よりも平穏を選んだ。今回の依頼者には世評を気にする上司や同僚、家族はいない。もちろん、実母や親戚はいるが、長らく生活は別。もし性風俗を利用したことが知られても、さして気にならないと言う。そこで私は言った。
「本番をしてしまったのは、故意ではないんですよね」
「はい、自分から入れようとしたことは一度もありません」
とはいえ、偶然、スルっと入ってしまった後、すぐに抜くのではなく、腰を振り続けたことも事実である。
「挿入していた時間はどれぐらい?」
「1分か、2分か。いきなり大声を出して、私を突き飛ばして」
ユウはすぐさま電話をかけ、マネジャーが現れた。この先が3つ目の違い。
「(性的サービスと価格の種類を記した)メニュー表を見せられて、『事前に説明があったでしょ』と。そんな説明はなかったし、何かと思ったら、メニュー表の裏に、めちゃくちゃちっちゃい文字で、『本番行為に及んだ場合は、50 万円の罰金』とか何とか、書いてあって。腹立ったから『脅迫するつもりなのか』と言ったんです。そうしたら、いきなり2人の警官がやって来て」